第11話:再起動しないし・・・。

「セシル・・・前のオーナーだった干しぶどうみたいなじいさんって、

セシルにとって何人目のオーナーだったんだ?」


「おじいちゃんが、はじめてのオーナーだよ」


「そうなんだ・・・」

「ってことは?、じいさんと一度もなかったって言ったよな・・・つまり?」

「バージンか?、セシル?」


「バージン?・・・・」


「ああいい・・・分かんなかったらいいよ」

「それにしても性教育までちゃんと脳みそに入ってるなんて、恐れ入ったわ」


「そういう知識もテクニックも、ちゃんと知ってるガイノイドのほうが

よく売れるんだって・・・世の中の男はみんなスケベだから・・・」


「なるほど・・・スケベってのは当たってるな・・・理屈だな」

「つうか、もう夜中の2時じゃないかよ」

「話は明日・・・俺はもう寝る・・・明日、仕事だし・・・」


「え〜構って〜・・・みらい〜・・・私の相手して」


「おまえの相手なんかしてらら俺は寝不足になっちゃうの・・・」

「眠らないおまえとは違うんだよ、人間はデリケートにできてるんだからな」


「つまんないの・・・泣いて・・・」


「ストップ・・・言っとくぞ、真夜中に大声で泣くなよ」


「泣いてやる」


「つうか、今まで一度もセシルが泣いたの聞いたことないよな?」


「うん・・・たぶん泣いたらこのマンション壊れちゃうと思うけど・・・」

「私、泣くとギャオスみたいに超音波発生るるから・・・」


「なんだそれ?・・・それじゃ余計だよ・・・絶対泣くなよ?」

「マンション壊れたら俺もおまえも住むところ無くなるからな」


「大丈夫だよ・・・なわけないじゃん・・・冗談に決まってるでしょ」


「そう言う人を脅すような冗談は言うなよ」

「ってか俺をからかって面白いか?・・なんだよ、やめろよそう言うの・・・」

「もういいわ・・・おまえを相手にしてたら徹夜になりそうだ・・・」


「頼むから俺を寝かせろ」

「それが今夜のおまえの役目・・・分かった?」

「こんなことやってる合ってる間に時間がどんどん過ぎていくだろうが?」


「そうだ・・・あのさ、セシル一時的に機能停止とかってできないのか?」


「滅多にやらないけど、メンテするためのユーティリティー起動する時

一時的に機能停止するけど・・・」


「おお、いいじゃん、俺が寝てる間にそれやれよ」


「いいけど・・・」

「未来ちゃんの横に寝てもいい?」


「え・・・うん、あ、いいよ・・・」


そう言うとセシルは俺のシーツに潜り込んできて横に寝た。


「えへへ・・・」


「えへへじゃなくて・・・俺の顔見て笑うなって・・・ちゃんと上見て集中しろよ」


「それじゃ〜ね、未来ちゃん・・・私、明日の朝まで再起動しないからね」

「おやすみ」


「お〜、おやすみ・・・その言葉が欲しかったんだよ」


よかった・・・よくやく静寂が訪れた・・・これでゆっくり眠れるわ。

って、その時は安心したんだけど・・・だけど・・・


次の朝になってもセシルは機能を停止したまま再起動しなかった。


このまま放っておくわけにもいかないと思った俺は、とりあえず

セシルの様子を見るため、その日は会社を休んだ。


セシルが再起動しないことを相談する人もいないし・・・で、とりあえず、

パセリさんにLINEを送った。


《セシルが一時的に機能停止したまま起きないんだ》


《知ってます・・・夕べのやりとり全部見てましたから》


《やっぱり見られてたんだ》


《未来くん大変だね》


《まあね、あんなでもまだ可愛げがあるから、いいんだけどね》

《じゃなきゃ、ウザいって》


《セシルちゃんは、あの子なりに一生懸命なんだよ》


《まあ、それは分かるけど・・・》


《それにしてもセシル、ぶっ壊れちゃったのかな?》


《私、ガイノイドさんじゃないから分かりません》


そりゃそうだよな・・・パセリさんに聞いても分かるわけがない・・・。

ただ、俺はこの状況を誰かに知っておいてほしかったのかも。

でも、夕べから俺たちのやりとり、見てたんならLINE送った意味なかったかな。


どうしたらいいか分からなかった俺はセシルをもらってきたディスカウント

ショップに電話してみた。


そしたら


「そんなの知らないね」

「中古だから保障ないって言っただろ?」

「廃棄しようと思ってたくらいだから・・・もうすでにイかれたのかもな」

「えっ?・・・修理できないかって?、そんなことうちに言われてもね・・・・

あの子を作ったメーカーに持ってきゃいいだろ?」

「それとも闇業社、紹介してやろうか?」


「アホか!!闇業社になんかにセシルを持って行ったら、違う物体になって

帰ってくるわ・・・もういいよ」


ばあさんちでもどうにもならないか。

もしかしてセシルはメンテに時間かかってるだけで、そのうち目覚めるかも

しれない。

なもんで、俺はその日1日様子を見ることにした。


なんか自分が寝たいためにセシルに無理強いして、こんなことになって

ちょっと後ろめたい気持ちになるな・・・自己嫌悪に陥る・・・。


ごめんよセシル。


トゥ〜び〜こんて乳。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る