第10話:寝ろよ。

セシルが俺んちに来てから初めての夜、彼女は寝らないことが分かった。

よく考えたらガイノイドに寝るなんて概念ないよな。

休息とか安眠って必要なさそうだし・・・。


そんなこと知らないから、セシルを俺とは違う部屋で寝かせようと思ったら、


「ひとりはヤだ」


って言うし・・・。


「なに?・・・わがまま言わずにひとりで寝ろよ」


「未来ちゃんと一緒じゃなきゃヤだ」

「泣くよ」


「泣くな」


なわけで、ひとりはヤだってスネるから、しかたなく俺の部屋で俺と一緒に

寝かせようと思ったんだ。

でも、寝ないんだ・・・。

お目目ぱっちり開いて、俺の横で俺の顔を見てニコニコ笑ってる。


「なんだよ、寝ないのか?」


「うん、寝ないの」


セシルはずっと起きたまま、なにやらくだらない話をあれこれくっちゃべり

はじめた。


「セシル・・・うるさいから黙っててくれないかな?」


「黙ってたらクチに虫が湧いちゃうでしょ・・・」


「屁理屈こねない」


「へりくつ?・・・ん〜・・・ちょっと待って、検索するから」


「いいよ、そんなこと検索しなくても・・・」


「屁理屈・・・筋の通らない理屈、くだらない話を意味する言葉だって〜」


「だから、いいんだって・・・もう寝たい」


「未来ちゃん、私〜退屈だから、もっとお話しようよ」


「頼むから、黙ってろって・・・」


「あ、そうだ、私とラブラブしようよ?、夜は長いし・・・」


「俺は眠いの・・・ラブラブなことなんかしないの?」

「俺にとって楽しいことは、いい夢見ながら熟睡することだよ」


「寝ちゃうなんてもったいないよぉ〜」


そしたら俺のパジャマを着ていたセシルがごそごそパジャマを脱ぎ始めた。


「え?おい・・・なにしてんの?」


「エッチするの、エッチ〜」


セシルはそう言いながら、止める間のなくパジャマを全部脱いでしまった。


「いきなりそんなこと言われたって気持ちの準備ができてねえわ」

「ふわ〜〜〜〜エッチなんかより寝たい欲望のほうが今は勝ってるんだって」


でもブラとパンツだけになったセシルを初めて見て俺は感嘆の吐息を

漏らした。


(およよ・・・めっちゃ、いい体)


セシルは理想的な女性を模して作られてるだけあってか無駄のない完璧な体だった。

体のどのパーツも、ほどよくバランスが取れてて決して過剰じゃない。

つまり、おっぱいは小さすぎずデカすぎず、ウエストは細すぎず、ヒップもほどよい

膨らみ・・・無駄ってものがない。


「ねえ、しようよ」


「セシル、ちゃんと下着つけてんだ・・・でもガイノイドにブラもパンツ

もいらないだろ?・・・人間と違うんだから」


「見た目、見た目・・・」

「見た目大事よね・・・女はそういうシュチュエーションで男を誘惑するんだから」


「どう、興奮した?、エッチしたくなった?」


「誘惑って・・・誰にそんなこと教わったんだよ?」


「そういう性教育のマニュアルも私の脳にちゃんとインプットされてるの」


「至れり付くせりなんだな」

「それなのに、なんで前のオーナーはおまえを手放したんだ?」


「前のオーナーさんは、干しぶどうみたいな、しょぼいおじいちゃんだったから

夜のお世話はぜんぜんなかったの・・・だから料理と洗濯、掃除・・・それに

老人介護だね」

「でね、おじいちゃんが亡くなっちゃったから、そのご子息が私のこといらない

からって、おばあちゃんの店に売っぱらわれちゃったの」


「そんなイワク付きのガイノイドなの、私」

「で、今は未来ちゃんの家にいるの・・・私と未来ちゃんの出会いって運命

感じない?」


「なんかじいさんのために尽くしたのに、捨てられたみたいに扱われて

可哀想だな・・・黙ってろとか、寝ろよとか言って悪かったな」


「そんな悲しい話聞くとセシルを引き取ってよかったって思うよ、俺」


つづく。



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