【KAC20248】眼鏡女子。

マクスウェルの仔猫

眼鏡女子。


さくら、眼鏡買いたいから見てもいい? 最近視力落ちちゃって、こ~んな風に目を細めないと黒板が見えないんだよ」

「こ~んな風に?」

「そ! こ~んな風に!」

「ぷふ! ゆう、変な顔~!」

「桜だって!」


 あはは、可愛い。

 変顔をしながらにらめっこしてるや。


 高校生くらいかな?

 楽しそうで何よりだね。

 

 そっか、土曜日。

 今日は忙しくなりそうだ。


「いらっしゃいませー」


 さて、今日も頑張ろうね。

 眼鏡屋さんの眼鏡っ娘さん?



「なあ、似合う? ど?」


 女の子に向ける男の子の目力めぢからにドキリとする。

 

 少し。

 ほんの少しだけ。


 あの人に、似てる。


「おおお、イケてる!」

「こちらの商品は最近入荷したんですよ」


「これ、いいよ! これにしちゃいなよ!」

「ちょっと予算オーバー。金、足りるかな……」

「足りなかったら私も少しなら出せるよ?」

「無理。そんな事はさせ……おけ、イケる。ありがとな、気持ちだけ」

「えへへ!」


 いいなあ。私もああやって優しく触れられたら嬉しいなあ。 

 

 選んだのはお手頃価格セットの一番上のもの。色と形のバリエーションが多いし、やっぱり彼女さんに似合ってるって言われたら、奮発しちゃうよね。


 私も同じ価格帯のセットの眼鏡だ。少し形と色が違うけど、あの人が『素敵だ』って褒めてくれたんだよ。


 優しく触れながら。

 微笑みながら。


 褒めて……くれたんだよ。


「じゃあ、これが欲しいんですけど……」

「ありがとうございます! では、セットになっていますのでレンズの種類をこの中からお選び頂けますか?」



 大きく見あげるくらいスラリとした身長が、格好良かった。

 薄い唇から零れ落ちる低い声が、素敵だった。


 あの人と共に生きる未来を夢見た。

 あなたの息遣いを間近で感じながら、生きていたかった。


 でも、叶わなかった。



「たっだいまー!」

「お帰り。お、今日は一段と笑顔が眩しいね」

「うん! 結構売れたし、素敵なカップルがいてさ!」


 私を、気に入ってくれた人がいる。

 愛してくれる人がいる。


「あれ? 何か眼鏡ちょっと歪んでない? ちょっと見せて?」

「え、嘘!」


 ちょっと、やめて!

 それ、いつもの手口でしょ! 


 いい加減気付きなよ!

 あああ、渡さないで!


 これが無かったらこの人、申し分のない素敵な人なのに!


「逆さにつけると、シン・ウルト……」

「ちょっと! まただまされた!」

「はっはっはっ!」

「もー!」


 もー!

 だまされ過ぎ!


 著作権も考えてよ!

 怒られちゃうよ!


 あああ、触りすぎ!

 そんな風に触っちゃダメえ!

 

 手つき、何かえっちっぽい!

 そ、そこはダメえ!


 眼鏡だって、ドキドキしちゃうんだから!

 ドキドキしちゃうんだからねっ?!


 ……あふっ。

 


 

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