第3話 回収した眼鏡
「今回の仕事はこれね。」
オフィスに入るなり課長は挨拶も無しにわたしにファイルを投げる。
プラスチックカバーに入ったファイルはカバーが程よい重りとなり、勢いよく飛んでくる。
「おっと!」
わたしはそのファイルをなんとかキャッチする。
そして、カバーの中のファイルを取り出し軽く一読する。
「何よこれ。 またただの依頼品の引き渡しじゃない。」
思わず不満が口をつく。
確かにこの手の業務が最近多いのだ、仕事を任せるのなら調査から一貫してやらせてほしいと思うんだけど。
もっともそうしないと都合が悪い場合がある。
その為、課長に念の為確認をする。
「これって、『特殊情報取り扱い法』案件なの?」
特殊情報取り扱い法。
最近成立した法律だ。
簡単に言えば大災厄で失われた技術や情報を取り扱う為の法律。
元々、暗黙の了解的に存在した事柄ではあるが、いい加減に明文化しないと取り締まりもままならないと言う事で成立した法だった。
それ自体は問題ないのだが、明文化された事で今までグレーとされていた領域も明確に黒と判定される事が多くなった。
結果、うちらの様な古物商や古本屋は対策を迫られた。
それは「話者が遺失情報と知らない場合は不問とする」と言う取り締まりに対する制限を利用した抜け道。
つまり調査と窓口を別とし、窓口には内容の詳細を教えないこと。
それにより、窓口担当が依頼主に詳細を聞かれても答えられない。
しかし何らかのかたちで依頼主が自力で答えにたどり着けるようにしておけば、違法行為には該当しない。
何せ依頼主が自ら答えにたどり着いたのだから。
そんな屁理屈じみた物でも法的には白と判断せざるを得ない、厳密にしてザルな法案だった。
とは言え守るべきは守らないと、いつ司法、立法、行政の三権が揃ってキバを剥いてくるか分からない。
どんな企業に勤めていても小市民にできる事は、権力とどう折り合いをつけるかだ。
話が長くなったが、わたしは課長を見る。
「残念! 今回の品物は特殊情報ではないわ。」
サングラスの向こう側でイタズラっぽい笑みを浮かべながら答える課長。
「じゃあ、なんで自分でやらないのよー。」
思わずわたしも素で返す。
「あら、単純な話よ。 わたしに時間が足りないから手伝いをお願いしてるの。」
確かに全員一丸が社是だけど、わたしは正確には関連他社の人員なんだけどと思ったが話しが進まないので、説明を促すこととした。
「仕事内容としては簡単な失せ物探しというか、遺品回収だったわ。」
そう切り出した課長は事のあらましを説明し始めた。
依頼人は元婚約者の足取りを調査し亡くなっているようであれば、ある遺品を回収して来ることだった。
すぐに調査を開始したところ、元婚約者の足跡はすぐに確認でき、既に亡くなっていることを確認した。
そこでうまく遺族を説得し遺品を回収したのだった。
ただ、この過程で遺品回収にかかった時間が長くなってしまった為、他の依頼とバッティングしてしまうため、応援を頼んだという事だった。
そこまで聞いてしまったわたしはため息をつきつつ了承する。
「じゃあ準備始めるけど、遺品ってなに?」
その言葉を聞くと課長は自分のデスクの上に一つのケースを置いて、わたしの方を向く。
わたしはそのケースを手に取り開けてみる。
そこには一つの眼鏡が収められていた。
その眼鏡をとりだし、しばしの時間調べてみる。
「……なるほどね。 これはしっかりと届けないと行けない代物だわ。」
ひととおり確認したわたしの口からつぶやくように言葉が漏れた。
この眼鏡は確かに依頼者家族にとっては重要なで有ることを理解した。
しかも、なるべく早く届ける必要がある。
わたしは今一度、ファイルを取り出して内容を見直す。
連絡先を確認するなり、すぐにオフィスを後にした。
ともかく早く遺族へ知らせるべきだったから。
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