第14話
されるがままに撫でられていた僕は解放されてその場にへたり込んだ。
浦霧さんの撫で回しはすごくテクニシャンで気持ちよかったです……。
僕が惚けている間、浦霧さんはさも当然のようにブラシを取り出して僕の乱れた髪を梳かしていく。
良いものを使っているのか、ブラシが通った部分は凄くサラサラになっている。
「新品のものだから安心するといい。良かったらあげようか?」
「や、悪いよ……」
「ふむ。もし良かったら次元収納のスキルを見せてくれないだろうか?ヘアブラシはそのお礼ということでどうかな?」
見たいと言うのを断るのは悪いし、ブラシを突き返すのも心苦しい。
浦霧さんが用意した一択しか無い二択に僕は頷くしかなかった。
次元収納でブラシを収納すると、「おおー」と笑顔でぱちぱちと拍手する浦霧さん。
「私に次元収納があったら久保くんを収納してしまうんだがな」
「このスキルは生き物は収納できないから無理だよ?」
「ふふ……」
浦霧さんは悪戯っぽく笑うのだった。
全財産という名の予算を伝え、まずは靴屋に寄ることにした。
目的地まではそう遠くないので自転車を物陰で収納してしまい、浦霧さんと並んで歩く。
「浦霧さんはダンジョンに潜ったんだよね?」
「ああ。固有スキルのおかげで弱点を突きながらある程度までは進めたが、どうしてもボスだけは火力不足で倒せなくてね」
「耐性を得ていくのがかなり厄介だよね」
僕は幸運が重なってスキルを複数手に入れられたが、そうでない人に攻略は難しいだろう。
というか、水中に陣取っていたロキとかは普通ならどうやって倒せばいいんだ?
「おっと、危ない」
考え事をしながら歩いていると、近くを自転車が通ろうとしたので浦霧さんが僕の肩を抱き寄せる。
なんか僕、女の子扱いされてない?
浦霧さんはそのまま流れるように僕の手を取り、手を繋いだ状態で歩き始める。
先導する浦霧さん的には恐らく女友達感覚で僕に接しているのだろうが、男であるという自負がある僕は気が気でない。
女の子の手の柔らかさに凄くドキドキしている。
目的のお店に着き、商品を眺めながら歩いていく。
「ダンジョン内は地面がボコボコのところもあるし、登山靴とかの方が良いのかな?」
「ステータスにより耐久力が上がっているのなら、走りやすい方が結果的に相手の攻撃を回避できて良いのではないか?」
あれこれ相談しながら、結果的に走れるトレッキングシューズとかいう商品を見つけてそれにすることにした。
僕が備え付けの椅子に座って靴の試し履きをしていると、背後から近寄ってきた浦霧さんが僕の頭に顎を乗せる。
浦霧さんの長くて柔らかい一房の髪が顔にかかり、くすぐったい感覚と共に何だか凄くいい匂いがする。
銀髪赤目で小柄な僕と黒髪黒目で長身な浦霧さんは、はたから見たら白兎と黒狼に見えるかもしれない。
食べられてしまう寸前である。
靴の次は下着類を選びに行くようだ。
「今開いているお店だと……女性用下着専門店と有名量販店ならどちらが良い?」
「ゆ、有名量販店の方で」
流石に前者はハードルが高すぎる……。
「久保くんは迷宮を探索する訳だから、普通のブラよりスポーツ用の、いわゆるスポブラの方が良いだろうね」
「そうかも」
心理的にも普通のブラよりスポブラの方が良いと思う。よく分からないけど多分。
「トップとアンダーとかは……調べていないのかな?」
「分かる訳がない……」
「そうかな?まずサイズを測ってみようという発想には至らなかったのかい」
「至らなかったよ」
体はなるべく見ないよう、触らないようにしていたので。
「それじゃあ、一先ずサイズを測るところから始めよう。女性用下着専門店の方だったら店員さんに測ってもらえたのだけど、こっちだと私が測るしかないね」
……。
「……えっ?」
最初に明らかに差がある二択を提示してきたのは罠だったのだ。
慌てて店内を見回し、店員さんが服の上から測ってくれるという旨のポスターを見付ける。
「あ、あれ!店員さんが服の上から測ってくれるって!」
「……。いや、バストサイズはなるべく正確に測った方が良いからね?」
「ひっ!?」
浦霧さんの有無を言わせぬ笑顔が怖くて、短く悲鳴をあげてしまった。
いつの間にか専用のメジャーを持った浦霧さんに引っ張られ、更衣室へと連れ込まれる。
────────────────────
「うぅ……、もうお婿に行けない」
「ふふ、それは良かった」
「どうしてそんなひどいこと言うの……」
ねっとりとサイズを測られ、じっくりとスポブラの着用法を試着を踏まえて教えてもらった。
買い物かごの中ではスポブラが悲しく揺れている。
「あ、寝る時用のナイトブラもあった方が良いね」
「な、ナイトブラ……?」
なんだそれは。
残念ながら買い物はまだ終わりそうになかった。
その後はダンジョンを探索するのに必要になりそうな物を探して回る。
水と日持ちしそうな携帯食、ランタンにもなる懐中電灯、必要最低限の医療品、中古ショップを覗いて頑丈で大きなスーツケースも購入した。
予算が尽きてしまったが、あとは家から持ってきたものでなんとかなるだろうか。
「大事なものを忘れていないかい?」
他に必要な物がないかと思案していると、浦霧さんがそんなことを聞いてくる。
「大事なもの?と言っても、もうお小遣いは無いし……」
「必需品を個別に買っていたら予算が足りなくなってしまいそうだからね。これをあげよう。最低限しか無いが、迷宮で複製するといい」
そう言って浦霧さんは防水加工っぽい黒いポーチを渡してくる。
中には何枚かのビニール袋、何種類かの薬、ショーツのようなもの、それと2種類のナプキンが10枚ずつ入っている。
「!?」
「必要だろう?」
「必要なの!?」
『必要だな』
ロキに肯定されたことで、受け入れるしかなくなる。
(えっ、ひ、必要なの?えっ)
混乱する僕をよそに、浦霧さんはポーチの中身の説明を進めていく。
「これは吐き気がある時用の鎮痛薬、こっちは頭痛を伴う時、これは眠くならないタイプの鎮痛薬で……」
薬は主に鎮痛薬らしい。
『まあ、オマエには超然再生スキルがあるからひどくはならないと思うけどな』
(そ、そうなんだ)
「こっちは生理用ショーツ。あ、ナプキンの使い方は分かるかい?」
当然僕は首を横に振る。
何もわからない僕に対して、浦霧さんは懇切丁寧に説明をしてくれた。
「使い方、地味に難しそうだね」
「時間があればネットとかでも調べてみると良い。あとはスキンケア用にオールインワンジェルも渡しておこう。肌の手入れは大事だからな」
「何から何まで、何とお礼を言ったら良いか……」
厚意を貰うばかりで何も返せるものが無く、心苦しい。
「ふふ、お礼に抱き締めてくれても構わないんだがな」
浦霧さんは可愛いものが好きで、今の美少女化した容姿を好いてくれているに過ぎないのだろう。
彼女には感謝してもしきれないし、そんなことがお礼になるなら……。
「えいっ」
浦霧さんの無防備なお腹の辺りに軽く手を回してぎゅっとする。
「ひゃん!」
浦霧さんの女の子にしては少し低めだった普段の声とは異なる可愛いらしい声出て、一瞬時が止まる。
「「……」」
みるみるうちに顔を赤らめる浦霧さん。
グイグイ来る割に、攻められるのは苦手なんだな……。
「ち、ちがっ。て、てっきり私の一方的なものだと思っていたから……」
浦霧さんは顔を真っ赤に染め上げて、しどろもどろになりながら弁明してくる。
「一方的?」
首をかしげながら、浦霧さんの言葉の一部を反芻する。
「私はずっと久保くんと仲良くなりたいと思っていて……。お、覚えてないかい?学校が始まって最初の体育の授業であぶれ者同士一緒にペアを組んで……」
「ご、ごめん、人の顔を覚えるのがあまり得意じゃなくて」
特に学校が始まった頃は誰が誰なのか分かっておらず、体育で浦霧さんとペアを組んだことなど覚えていなかった。
「そうか……いや、良いんだ」
そう言う浦霧さんの顔は少し寂しそうだった。
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