第10話


 コメントの読み上げ機能によりメッセージが脳内へ流れる。


[佐藤147:何もかもが初めて過ぎてマナーとか有るか分からないけどはじめまして]

[FS ・ᴗ・ 495:アバターかわいい]

[カルカロ♠︎ソロソ:強そうだね♡]


 まだ自分の顔を水面でチラッと見ただけなので自覚が無いが、来たばかりの人からは容姿が整い過ぎてアバターだと思われてるらしい。


 あとIDって日本語とか変なマークとかも使えるんだな。

 IDは英数字じゃなきゃならないという固定観念があったのでびっくりした。


 新しい人が来るたびに簡単な自己紹介と共に現状を伝え、情報交換を行い、出口へ向かって歩いていく。

 時折ガンドを用いて羊を処理していく度に驚きのコメントがあがる。


 2層へ戻るための階段へ到着した頃には、どうやら自分はかなり運が良い方だったのだと流石に気が付いていた。

 普通は2層か3層で重傷を負ったり亡くなったりする人が多く、ボスを倒したという人は恐らく日本で僕だけなのではないかという話だった。


『つよさをみる』からステータスを確認すると、魔力の残量が半分程になっていた為、2層に戻る前に少し魔力を回復していこう。

 ジャージの上を脱いでTシャツ姿になり、腰を下ろして壁に背をもたれると、コメントがざわめき立つ。


[おお!]だとか[キタ━━━(゚∀゚)━━━!!]だとかのコメントが今までとは段違いの速さで増えていった。

 まあ、見てくれが美少女だからね。


「これはマナを回復しています。ダンジョンの壁や床や天井は微弱に発光していて、その光には魔力マナを回復させる効果があります」


 僕がそう解説すると、[へー]や[知らなかった]などのコメントが付く。

 そもそも大半の人は魔力も魔技も0の状態だろうから知りようがない。



 そのまま30分程視聴者達と当たり障りのない会話を続け、適当なところで休憩を切り上げて階段を登り始める。


 2層は雪原と見紛う程一面に塩が広がる広場で、中央には50メートル程の大岩が鎮座しており、上へと続く螺旋階段がその上部にある。

 前はドーム状の天井から塩がパラパラと降っていたが、ダンジョンを停止した今は新たな塩が生成されることはない。


(塩は1層のスライムの駆除に使えるし回収したいな)


『隠したいのなら一度ハイシンを切るのも手だぞ』


(いや、これからもハイシンするならずっと隠しておけるものではないし、使うよ。『次元収納』により継続収納)


 塩を対象として次元収納スキルを起動し、五感のいずれかで捉えられる全ての塩を一瞬で収納する。

 継続収納にしたので、もし塩の中にゴブリンが隠れていたとしても、サーモンだった時のロキの周りの水を細く収納したのと同じ要領で収納できる。


 真っ白だった風景ががらりと一変し、ヒマラヤ岩塩のような色味の岩肌が露出している。


 コメントの流れが一瞬止まり、直後に一斉にコメントが殺到する。


[!?][えっ][ん?][ほわっ!?][なんや][目の錯覚か?][何だ今の!?][なにが起きたし][固有スキル?][ちょっと目を離してたんだけどどうしたんですか?][腋を舐めたい][ダンジョンのギミックとか?][大丈夫なんです?]


 こんなに沢山の人が見てたのか。

 ハイシン状況確認画面を見ると、観測者の数がいつのまにか100人を超えている。


「僕のスキルによるものなので大丈夫です。というか視聴者さん凄く増えてますね」


[rain➳bow:他の配信者は1層2層が多かったので3層に居たミキさんは若干注目を集めたのかも]


 ミキさんと呼ばれて少し戸惑ったが、そういえばクボトミキと名乗っているんだった。


「なるほど」


 塩が無くなった広場を見回すと、やはりゴブリンが点在してうずくまって隠れていたようだ。


 1番近くのゴブリンを見てみると、何やら服のようなものを身に纏っている。

 というか、僕が着ているジャージと同様のものだった。


「僕と同じジャージ着てる!」


 今着ているジャージは裾がスライムの酸によって穴をあけられてしまっていたが、ゴブリンの着ているものには穴はあいていない。


 貴重なジャージ……痛めずに回収したい。

 そうなるとガンドも超酸射出も次元収納も使えないか。


 肉弾戦で行くしかない。


『おいおい、近接系のスキルは持ってないんだろ?』


(このゴブリンは塩をぶつけてくるしかしないから大丈夫だよ)


 悠然と近づいて来る僕に対し、ゴブリンは慌てて立ち上がり、握り込んでいた塩を投げようとする。

 瞬間、一気に踏み込み、右拳による正拳突きを行う。

 元々の肉体から3倍に強まった敏捷が一息で間合いを詰め、同様に3倍近い筋力が暴威を振るう。


 ぱぁん、という乾いた音と共にゴブリンは吹き飛ばされ、ドロップ品の宝石のような石ころとジャージを残して光の燐光へと変じた。

 男だった頃より女の子の身体の方が強いってなんかフクザツだなぁ。


[へあっ!?][やば][強くね?][モンスター5m位吹き飛んだぞ][空手のプロ?]


 大体はこの神話時代の少女のボディがやたら強いせいだが、コメントがやや引き気味である。


「正拳突きを1日1万回やってるからね」


 これは嘘ではない。

 お金が掛からない趣味を探していた僕は、漫画の影響で中学生の頃から毎日正拳突きを1日1万回続けている。

 アクティブな厨二病である。


「1秒ごとに左右で1回ずつ打てば1時間半位で終わるよ」


[化け物?][そんな短距離走の速さで走れば長距離走なんてすぐ終わる理論やめろ][この子ちょっとやばい?]


「本当は1発1発の間に感謝の祈りを挟んだ方が良いんだけど、僕は武術への感謝の念が無いので、残念ながら省略してるよ」


[こわい][知らねーよw][ひえっ狂人やんけ]


 なぜか分からないけど、怖がられてしまった。

 しゅんと落ち込んでると、お知らせのようなものが表示される。



[おしらせ][Dark†Angelさんより1ポイントが贈られました]

[Dark†Angel:てすと]


「あっ、ダークエンジェルさんからポイントが贈られてきました!ポイントとか送れるんですね。ありがとうございます!」


 ぱあっと自然に笑顔が浮かんできて、ダークエンジェルさんへとお礼を言う。


[かわいい]という旨のコメント群が多数流れてくる。


 可愛いのは変神スキルによる美少女体なのであって、本来の僕のことではない。

 そもそも、僕は男なので可愛いと言われても何とも言えない歯がゆい気持ちになる。



 その後も隠れる場所がなくなったゴブリンを狩っていく。

 ジャージを着ているゴブリンは正拳突きで倒し、何も着ていないゴブリンはガンドで倒していく。

 割合としては半々といったところか。


 広場に居たゴブリンは狩り尽くしたので、そのまま大岩の削り出したかのような無骨な階段を登っていき、1層へ向かって進んでいく。

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