第8話

 

『今のガンドの威力とオマエの魔力の値から考えて、消費魔力は7程度か?』


 ふと、ロキが思い出したかのように聴いてくる。


「ちょっと確認する。『つよさをみる』、ステータスっと」


 ────────────

 VITA 312/312

 MANA 673/680

 STR 276

 DEF 180

 AGI 366

 MAG 720

 RES 639

 LUK 495

 ────────────


「魔力は……7消費してるね」


 概ねロキの予想通りの数値が消費されていた。


 実のところ、ガンドに総魔力の1/100程度の魔力を込めたので、消費魔力は7だったという予感はあった。

 むしろピッタリすぎて逆にびっくりした。


『オマエは魔技MAG魔力MANAより高いから大丈夫だが、自分の魔技より高い魔力を扱おうとすると暴発する危険があるから気を付けるんだぞ』


「分かった」


 ロキの忠告を受けて、ガンドをぶつけた壁を見る。

 人体よりも硬そうな岩の壁を抉ったこの威力を超える魔法が暴発したらと考えると、背筋が冷たくなる。


 石壁に穿たれた穴を見る限り、魔技720の僕が7の魔力を込めると拳銃並みの威力のガンドが撃てる感じだろうか。

 だとすると、魔技70の人なら70程度の魔力を込めれば同じような威力が出せるのかな。

 検証してみないと分からないが。


『ついでに、魔力の回復についても教えておくぞ』


 魔力の回復。

 長期間ダンジョンに潜るのなら、恐らくは必要になる概念だ。


『特殊な方法を除いて、魔力の回復方法は2つあるぜ。一つ目は空気中の魔力を肺で取り込む方法だ。これは回復量が少なめで心許ないな』


「空気中のマナは回復弱、と」


 心のノートにメモしておく。


『二つ目は、迷宮内の光から取り込む方法だ。迷宮の壁や床や天井は微弱に発光しているが、この光にはマナが宿っていて、肌で浴びると効率良く魔力を回復可能だぜ』


「光に含まれるマナは回復強、と。それぞれの回復量はどれ位なの?」


『空気から呼吸で取り込める魔力は大体10分で1回復かな。光から取り込める量は……最高効率なら1分で1回復ってとこか』


 ロキは光の回復量で若干言い淀んだ。

 効率という言い回しからすると、シチュエーションによって回復量が違う?


「もしかして、光で魔力を回復する場合は肌の露出が多いほど回復量が多いの?」


『そうなるな』


 最高効率、つまり全裸の時なら10分で10の魔力を回復出来るとしたら、身体の半分が衣服で覆われていた場合は10分で5回復ってところか。


 今の僕は長袖のジャージを着ているので露出しているのは顔と首と手のひらだけだ。

 肌の露出面積が1割程と考えると、10分で魔力をおおよそ1回復する。

 呼吸による回復分を合わせれば、10分で2回復といったところか。


「肌面積によって回復量が増えるのなら、太っている人や身長が高い人は有利だね」


『いや、そこはあんまり変わらないんだ。人間の種族特性なのか、光と空気による魔力の自然回復の限界は1分で1までらしい』


 そう上手くはいかないか。

 皮膚面積が広ければ良いだけなら、自分の皮膚を伸ばす手術とかで伸ばしてしまえば回復量が爆上がりしてしまうことになるし。


「それ以外の特殊な手段での回復ってどんなのがあるの?」


『まず、魔力を回復するアイテムや魔力回復速度を高められるスキルなんか有れば、自然回復速度を超えて回復できるな』


「なるほど」


『あとは、この迷宮は3層までしかないが、4層以降には稀に安全地帯があって、そこに湧き出る泉の水を飲むと魔力が高速で回復する』


「じゃあ、その水を密閉して持ち帰れば……」


『湧き水は泉から離すと時間経過で効力が急速に失われるから難しいな』


 駄目かぁ。

 待てよ……。


「ちょっと待って、次元収納スキルで時間を止めて持ち運んだらどうなる?」


『その場合は……、あれ?どうなるんだ?』


 時間経過により急激に効力を失っていく。

 ならば時間を止めて収納してしまえば効力を維持できるのでは?


「要検証だね」


 そろそろ羊のモンスターが上から物を落としてくるエリアに入ったので話を一旦区切り、気を引き締める。


「そうだ、『迷宮の覇者』」


 スキル名を唱え、迷宮の覇者のスキルを有効化する。

 このスキルには半径1キロメートル以内のモンスターの位置を探知できる効果があるらしく、範囲内のモンスターが直感的に分かるようになった。

 天井までは目測で300メートル程なので、これで更に羊の落下物への警戒が楽になる。


『モンスターと戦うのか?それならハイシン機能を使うと手に入るポイントが2倍になるぞ』


「うそ!?そんなの聴いてないよ!」


 僕は悲痛な叫びをあげながら、ハイシン機能を立ち上げる。


 ──────────

 ・ハイシンをする。

 ・ハイシンを見る。

 ・ハイシンの設定。

 ──────────


「むっ、まずは設定だね」


 三つの選択肢の内の1番下を選ぶ。


 ──────────

 ・IDを非表示にする

 ・自動翻訳機能をオフにする

 ・送られたコメントの読み上げをオフにする

 ・ハイシン中のアバターを変更する

 ・映像の設定

 ・その他の詳細設定

 ──────────


「とりあえずIDは非表示だよね。えーと、この自動翻訳機能って何だろ」


『ハイシン中は神秘の力で、喋ったことの全てが伝えたいニュアンスで相手に伝わるようになる』


「マジ?凄いな」


 英語の成績が芳しくない僕でも、配信ハイシンを見ている外国の人に伝えたいことを伝えられるのか。


『この自動翻訳はハイシン映像を通さずとも、そこらを歩いている別言語話者の相手でも有効だ。何なら人間以外の動物にも伝えられる。あくまで伝えるだけの一方通行で、相手の言うことは分からないがな』


「ま、マジ!?すげえ!!」


 一方通行とはいえ、動物と話せるのは凄すぎる……。


「じゃあ次の、送られたコメントの読み上げって必要?」


『戦闘中はハイシン画面見てる余裕無いだろうし有った方が良いな。読み上げコメントはハイシンしてる本人にしか聴こえないから、他人に聴かれる心配もない』


「なるほどね。その次のアバターの変更って何?」


『映像の中のハイシン者の姿や声を自由に変更できる』


「そんな便利機能が!?」


 変神のスキルが無くても大丈夫だったのではないかという疑念が浮かぶ。


『まあ、姿が変わるのはハイシンによる映像の中だけだから、人類の技術で作られた機械で撮影されると本体が映っちまうから変身系のスキル程便利ではないぞ』


「ああ、他の人が近くに居たらバレちゃうね」


 このアバターの変更はあくまで配信映像の中の人の姿と声を弄れるだけなので、肉眼で見られたりカメラで撮られたりすると弱い。


『一応、複数人で冒険する場合は他人のハイシン映像の中でアバターの姿を使うことは可能だがな』


 設定さえしておけば、他人の配信で撮られてしまった場合でもアバターの姿で映るのか。

 でも変身系スキル並みに身バレを防げる訳ではないしな。


 次いで映像設定をタップすると、一人称視点や二人称視点、視点を固定アングルからとかに出来るらしい。


「これは一人称視点にしとけば顔バレの確率下げられそうじゃない?」


 水面の反射とか金属の反射とかでいつかはバレるだろうけど。


『そうだな。だけど二人称視点だと本人から見えない角度でも視聴者は見えててコメントで情報を教えて貰えたりするメリットもある』


 迷うな。

 まあ、今の僕は変神スキルで別人に変わってしまっているので大人しくメリットを享受した方が良いかもしれない。

 二人称視点にしておこう。


「よし、こんなもんで良いか。ハイシンを始めるよ?」


『あ、オイラとの会話は声に出すなよ?独り言ぶつぶつ言ってるヤバい奴に見えるから』


(確かに。君と話す時はなるべく心の中で会話する癖を付けないと)


 そう心の中で誓い、画面を戻り「ハイシンする」を選択する。


 ──────────

 ・通常ハイシン

 ・限定ハイシン

 ・プライベートハイシン

 ──────────


 通常配信で良いだろうと考え、通常ハイシンを選択すると、『ハイシンを開始しますか』との文字列が浮かぶ。

 やべえ、ドキドキしてきた。


 早鐘のように鳴り響く心音と共に、開始ボタンを押す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る