第3話
最初の通路を1層と仮称し、塩まみれの平野を2層とするのなら、今まさに階段を降り切って3層へと踏み入れたところだ。
3層は両側が壁のようになっており、細い道が奥へとひたすら伸びているようだ。
一言で言い表すのなら、谷底と言ったところか。
両側の壁はどうやら天井まで繋がっているので登っても多分意味がない。
それに高さが300m位はありそうだから、そもそも登れないけど。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
下を見ればサッカーボール程の大きさの虹色の結晶が道の彼方まで地面を覆い尽くしているのだ。
「これってまさか……」
腰を落として地面を埋め尽くす虹色の結晶に触れてみると、スライムのスキル結晶(全)という表示が現れる。
まさに自分がスライムを倒した時に拾った物と全く同じ物だ。
「レアじゃなかったの!?」
他のもの調べてみたが、大量のスキル結晶はどれも僕が持っていたスライムのスキル結晶と同一の物らしい。
「珍しい物じゃないのなら、使ってみるか」
試しに落ちている内の1つに触れてみるが、アイテムの名称が表示されるだけだ。
「どうやって使うんだろ」
そう僕が呟くと、スライムのスキル結晶(全)という表示が変化する。
──────────
『スライムのスキル結晶・全』を使用しますか?
次のスキルの中から一つを選んで習得できます。
・悪食
・腐蝕粘液
・腐蝕耐性
・物理破壊耐性
・自然治癒
・収納
──────────
使う意思を見せることで使用できるのか。
どうやらいくつかの中から自由に選ぶことができるらしい。
「じゃあ……一番下の『収納』で」
『収納スキルを習得しました。』という表示に切り替わると、ウインドウは消えてしまった。
「えっと、『つよさをみる』」
──────────
名前:久保幹兎
所有ポイント:3
固有スキル:初回限定ドロップ
スキル:収納
[機能]
──────────
「スキルが増えた……!」
ウインドウのスキル欄に新しく追加された収納スキルを見て嬉しさが込み上げてくる。
そのまま収納スキルの説明を見てみる。
──────────
収納(ランク1)
対象に触れてからスキル名を唱えることで発動。他者が触れていない物に限り、1メートル四方に収まる非生物の物体を10個まで収納可能。取り出す時は対象を意識して『取出』と唱えるか、リストから選択することで体に触れた状態で取り出し可能。
[リスト][0/10]
──────────
「触れて発動、やってみるか。『収納』っと」
僕は地面に散乱するスキル結晶の1つに手を触れ、収納スキルを試しに使用する。
スキル名を宣言すると同時にサッカーボール大のスキル結晶が消え去った。
すぐにステータスを確認すると、収納スキルの説明欄にあるリストの数字が[1/10]と変化している。
取り出したい時はこのリストから選んで取り出すか、『取出』というワードを唱えれば良いらしい。
「よし、他のスキルも取得してみるか」
僕は大量に落ちているスキル結晶を使い、片っ端からスキルを取得していく。
「『つよさをみる』」
──────────
名前:久保幹兎
所有ポイント:3
固有スキル:初回限定ドロップ
スキル:収納、自然治癒、物理破壊耐性、腐蝕耐性、腐蝕粘液、悪食
[機能]
──────────
僕はステータスを開き、スキルの説明を順番に流し読みしていく。
自然治癒はその名の通り、体に備わる治癒力を強化してくれるようだ。
物理破壊耐性は体の損壊を防いでくれて、ランクが高くなるとナイフとかが刺さらなくなるらしい。
腐蝕耐性は酸とかに対する耐性で、腐蝕粘液は強い酸のようなものを飛ばせるそうだ。
最後に悪食は普通なら食べられない物も食べられるようになり、お腹も壊しにくくなると書いてあった。
「今のところランクは全部1だけどどうやって上げるのかな?」
考えられる方法としてはスキルを沢山使うとランクアップするか、もしくは……。
僕は再度転がるスキル結晶に触れて使用を試みる。
「『収納』スキルを取得。『つよさをみる』」
スキルの習得を宣言し、ステータスを開いて収納スキルの項目を確認する。
──────────
収納(ランク2)
対象に触れてからスキル名を唱えることで発動。他者が触れていない物に限り、 2メートル四方に収まる非生物の物体を20個まで収納可能。取り出す時は対象を意識して『取出』と唱えるか、リストから選択することで体に触れた状態で取り出し可能。
[リスト][1/20]
──────────
「上がってる!」
スキル結晶を再度使うことによりランクを上げられるらしい。
そのまま何度も収納スキルのランクを上げていく。
──────────
『収納』スキルのランクが最大になりました。『収納』スキルを『次元収納』スキルへと強化できます。
強化を実行しますか?
──────────
収納スキルのランクは10が最高だったらしく、最大まで上げたところでスキルの強化を促すようなウインドウが表示された。
「よく分かんないけどカッコイイからやります!」
──────────
次元収納(ランクEX)
対象を認識してスキル名を唱えるか、スキル名を念じることで発動。他者が触れていない物であれば、五感のいずれかで認識した非生物の物体を収納可能 。取り出す時は任意の場所に対象を意識して『取出』と唱えるか、リストから取り出し可能。
[リスト]
─────────
収納スキルが次元収納へとランクアップした。
意識するだけで収納可能になったらしい。
そういえばリストの横の制限みたいな数字が無くなってしまったけど、容量の上限が無くなったのだろうか。
試しにリストを開いてみると、きちんと収納した物が表示される他、収納物を大きさや量によって仕分けることが出来たり、収納物の時間を止めたり動かしたりも調整できるようになっている。
「お湯を収納したらいつでもカップラーメンにアツアツのお湯を注げるってこと!?」
帰ったら大量のお湯を沸かさねば。
ついでに大量のスキル結晶を消費して、他のスキルのレベルも最大まで上げておく。
結果、『自然治癒』スキルは『超然再生』スキルへと強化され、『腐蝕粘液』スキルは『超酸射出』スキルへと変化。
その他のスキルはランク10で頭打ちらしい。
──────────
名前:久保幹兎
所有ポイント:3
固有スキル:初回限定ドロップ
スキル:次元収納、超然再生、物理破壊耐性、腐蝕耐性、超酸射出、悪食
[機能]
──────────
「おー、なんか……悪役っぽいようなスキル構成だな……」
気を取り直して出発だ。
ゴブリンのスキル結晶は一つしかないから今は次元収納で大事に仕舞っておこう。
さて、探索へと戻ろうと思ったが、地面を埋め尽くす大量のスキル結晶が歩くのに邪魔だ。
「もう上げられるスキルが無いんだよね……。そうだ!」
次元収納スキルは目で見ただけの物も収納出来るように強化されたんだった。
「『次元収納』」
目に映る全てのスキル結晶を対象とすると、あれだけひしめいていた大量のスキル結晶は綺麗さっぱり収納される。
今まで隠れていて気が付かなかったけど、道の真ん中を少量の水が流れていた。
僕は流れていく水を追い掛けるように下流の方へと歩き出す。
ちょろちょろと僅かな音を立てて流れる水に耳を澄ませながら歩いていると、上の方から「あっ」という声が聞こえた気がした。
なんだろうと思って上をみると、サッカーボール大のスキル結晶が──僕の頭を目掛けて落下してくる!?
『次元収納』ッ!
口に出して言う暇がなく、心の中で次元収納スキルを高速で念じ、辛うじて落下物の収納に成功する。
「あ……っぶなぁ!何今の!?」
落下してきた動線を辿るように視線を持ち上げていくと、天井付近の高い位置にいくつかの窪みがあり、そこからふわふわの羊のような生き物が顔を覗かせている。
あいつが落としてきたのか。
人差し指を銃のように構えて羊のような生き物を指差し、スキル名を宣言する。
「『超酸射出』」
正直言って届くとは思っておらず、威嚇射撃とスキルの試し撃ちのつもりで放ったのだが、拳大の超酸が高速で撃ち出され、羊の近くの岩壁に当たって
超酸の飛沫を浴びた羊は叫び声をあげながらのたうち回り、脚を踏み外して落下してくる。
落下に巻き込まれないように少し後退した直後、寸前まで僕がいたところに羊が落下した。
300メートル近い高さから落下したにも関わらず音があまりしなかったことから、ふわふわの羊は衝撃を吸収するようなスキルとかを持っていたのかもしれない。
羊自身にも落下によるダメージは無く、どちらかというと超酸を浴びた痛みによって暴れ回っている。
「もう一度、『超酸射出』」
狙いを付けて放ったスキルは羊へと命中し、不快な臭いを立てながら羊の身体が溶けていく。
「ぐ……グロい……」
絶命した羊は光の粒子となって消え去り、お馴染みのサッカーボール大のスキル結晶だけが残された。
このスキルは本当にピンチの時以外は封印しよう……。
────────────────────
とある迷宮内を用心深く身を隠しながら歩く少年が居た。
ネットにてダンジョンと呼称され始めたこの構造物は非常に危険な場所であり、興味本位で立ち入るべきでないのは重々自覚していた。
ネットの書き込み情報を整理したところ、2層以降には侵入者の戦法や武器をコピーする罠のような特性があり、非常に多数の死傷者が出ているらしい。
現に剣道六段の有段者が竹刀を用いて2層に到達したところ、技巧が同等としか思えない竹刀を持った怪物が現れたという情報もあった。
しかし、少年には勝算があった。
相手の戦い方を真似するのならば、モンスターと戦わずに次の階層に行けば良いのではないか?と。
慎重に慎重を期した少年は徹底的にモンスターを避け、とうとう2層へと辿り着く。
階段の出口から顔だけを出して2層を観察していると、はるか遠くに赤いぶよぶよが見えた。
スライムだろうか。
強いモンスターでは無さそうなので、少年は自らの目論みが成功したことに安堵した。
瞬間、目前に赤いスライムが現れる。
(ワープ!?いや、地面が削れている!)
凄まじい速さにも関わらず無音で近付いてきたとでも言うのか。
赤いスライムは動かず、まるで少年を観察するかのようにじっとしている。
見つかった時は冷や汗が流れたが、攻撃してこないのを見て作戦の成功を確信する。
「まさか……知能があるのか?」
「マサヵ?チのゥ?」
赤いスライムから発せられた抑揚のない音声に、少年は自分の体温が急速に冷めていくのが分かった。
同時に、赤いスライムは傘を広げたかのように少年を包もうとゆっくりと薄い膜を伸ばしていく。
違う、作戦は失敗だったのだ。
少年は理解してしまう。
モンスターと戦わずに次の階層に入った場合、モンスターの全ての能力が著しく強化されてしまうのだろう、と。
(戻らなきゃ。この情報を伝え──、)
少年が弾かれたように後ろに向き直った刹那、今までの緩慢な動作とは打って変わって赤いスライムが素早く一瞬で少年を包み込んでしまった。
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