僕のパンとサーカス

梅里遊櫃

1話

  僕の正しさはどこか違うようだ。間違いの中に本当を探すのは簡単だが、どうにもうまくいかない。

 宇宙は有限である。どこまでも広く思えるこの全て。僕の眼前にある大きな星空もどこまでも続くものではなく、輝きは水素に与えられ、この大地も有限である。

 なんだか小さなものに思えてくる。僕はただの人だ。人間であり、生物であり、有限である。

「ああ、ここにも何もないのかもしれない」

 めくるページは読んでいる本だ。ここは図書館。静かな空間に静かに落ちた。

 僕は果てを探している。正しさの優しさの果てを。

 どこに人間はおいたのだろう。また神はどこに隠したのだろう。正しさの形はどうにも歪で、世界を形作る倫理・道徳その他全て流動的だと僕は思っているのだ。

 偽善しかないという人もいるだろうが、人間はすごく曖昧な生き物なのではないだろうか。人間の赤は果たして同じ赤なのだろうか。恒久的に同じものが存在しないこの世界において、僕の見えている景色は同じ色をしているのだろうか。

 そう思う感情が強すぎるあまり、この世界はどこかモノクロで、この世界に置いて、他人というものは果たして人間なのかも僕にはわからないことである。

 哲学書を見て、哲学の分野の大学に進んでも、どこか果てのを探すが故に自分の論点を見失いそうになる時間が過ぎていく。

 きっと普通の大学生活というのは、こんな僕のような渇望者よりも、もっと恋愛をしたり親子喧嘩をしたり、そんな当たり前の日々を過ごしているに違いない。

 もう、ここから出してはくれないか。死がゴールなんてことは思わない。きっとこの世界には僕の言いようのない渇望の先にいる人がいる。コンピューターだって構わない。他の人に嘲られるのには慣れた。失笑されるのにも、つまらないや勿体無いと思われることにも。

 今日は何冊読んだだろうか。何冊だって構わない。きっとこれはフィロソフィーであるのだろうから。

 智を愛す。

 かのソクラテスは無知の知を説いたが、現在の社会は一周をまわり、きっとローマに似ている。僕はこの情報に埋もれそうな社会で、埋もれそうな波にもがいている。何が発達しようと消えないものはあり、そこには沢山の夢や希望があるはずであるようにきっと僕が求める絶対的正義が存在しているのではないか、と推測する。

 僕は一度図書館を出る。チラシを見つけた。サーカスだ。

「ああ、珍しいこともあるもんだ」

 僕は現代をパンとサーカスと呼んでいる。きっとこれは正義ではないが、思考としては面白いと思うのだ。何不自由のない生活、そして便利なツールが出てきており情報という波が押し寄せてきているのだから。

 きっと、本当のサーカスに行けば少し何か掴めるのかもしれない。僕の期待は微量のものだったが、行くには十分な理由だった。明日の午後一時、その場所は開かれるらしい。

 僕は普段昼食を食べている、場所に向かうのはルーティンであった。サンドイッチにコーヒー。コーヒーは甘めなブレンドでブラックだ。コーヒーは一日一杯。どこかでニーチェが言っていた。

 偏屈な僕が、見る風景はきっと人よりセピアだったりモノクロなのかもしれないが、とても楽しんでもいる。

 苦痛とは、人生のスパイスであり、生を感じられる瞬間であるのだから。

 切り取られたモノクロ写真はもしかすると、デジタル化が進んで明瞭になったこの世界よりもわかりやすく世界を映しているのかもしれない。

 喫茶店のドアを開ける。上品なコーヒーの香りと、ある程度の階級に許されだタバコの香り。タバコを呑む仕草はとても優雅であり、この場所を気に入っている。僕はタバコを吸わないが美味しく吸う姿はどこかお上品で、きっと素敵な日になるだろうと思った。

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僕のパンとサーカス 梅里遊櫃 @minlinkanli

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