第5話

美優は本当に手がかかる子どもだった。

美空は自分はきっと楽しく子育てが出来ると子どもの頃から信じて疑わなかったけれど美優があまりにも自分の幼少期と違っていて毎日手を焼きクタクタだった。

乳幼児期の寝ないから始まり離乳食は一切拒否、母親への度を越した執着から一時保育にも預けられず、1日中抱っこをしないと機嫌が悪く、歩くのも1歳4ヶ月になりやっとだった。


美空は契約社員だった。

育児休暇を取得して復帰してからも働いていたが毎日息つく暇もないほど余裕がなかった。

だが気持ち的には美優を保育ママに預けて会社で仕事をしている間は束の間の休息のようだった。

なんせ今まであれ程苦痛に感じた通勤電車でさえ、気を配らなければならない美優と離れて自分の身ひとつで乗っていると身軽で心軽かった。

相手は話が通じる大人で決して泣いて困らせていたりはしないし行きたい時にトイレに行けてチャイムが鳴ればゆっくり自分のペースで食事が取れる…

こんな普通のことがこれ程幸せな事だったとは…

しかし美優が2歳半の時に仕事の契約が切れた。

それと同時に良介は多忙な部署に移動になり早朝に出勤し最終電車で帰宅する日々になった。

良介の残業手当は美空のかつての年収に迫る勢いだった。

それでも美空は再就職先を探したが小さな子ども、ましてや非常に手がかかる美優を抱えての就職活動は上手くいかなかった。

いや、美優だけのせいではなく美空にはたいした技能がなかったことが1番の原因だった。

こんなふうにして美空は専業主婦となった。






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夫しか知らなかった @calypso

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