第4話

新婚生活はそんなスタートだったが穏やかな良介とは月に1度は旅行をしたりすぐ近所にあるビストロで食事をしたりそれなりの楽しみもあった。

良介は子どもは2年はいらない、と言っていた。

2年は…ということは子どもははやくて3年目に産まれることになる。

いくら見た目は若くても確実に卵子は老化しています、なんて記事を目にするとそんな悠長なことは言っていられない…

美空は良介に伝えてみたがあまり真剣には聴いてくれず結局長女の美優が産まれたのは結婚から3年半経った時だった。

美優は寝ない赤ん坊だった。

でも美空は赤ちゃんなんてこんなものなのかな?と寝不足の身体に鞭打って授乳やおむつ替えに家事に必死にこなした。

なんとしても産後鬱にはならないと美空は誓っていた。

それは妊娠中に実父がいつものように何気なく悪意のある言葉を投げつけてきたからだ。

新聞を読みながら

「産後鬱か…美空、お前いかにもなりそうだな」

またいつものことかと美空は何も答えなかった。

そしてどんなに辛くても私は産後鬱にはならない、絶対…と心に誓った。

出産をしてみて分かったのはとにかく眠れない、ということだった。

心が弱いから鬱になるのはではない、寝不足で思考力が奪われながらも美空は思った。

寝ない美優はまだ産まれたての頃、1時間寝てはまた1時間後に起きるのだ。

産後の疲れた身体で真っ暗な深夜になんども鳴き声で起こされるのは本当に暴力的とも思えるほどだった。

もちろん妊娠中に一度もしなかったセックスを産んだからはい、また再開しましょうという気持ちには微塵もならずまた良介からも一切求められないまま気がつくと6年が過ぎていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る