誰かといるって本当はとても尊いことなんだね
私はこの虫眼鏡を使いこなせているんだろうか。
私は物語の主人公たちを助けられているんだろうか。
少し、自信がなくなって、これを最後にしようかと思いながら覗き込んだ、虫眼鏡の奥、広がったたくさんの世界の一つ。
そこは、日本家屋が並ぶ昔めいた町並み。
私は、最後の旅をそこに決めた。
そこには、たくさんの大人たちに追い立てられている少女。
彼女からは深い憎しみと激しい怒りを感じる。
誰もが彼女を嘲笑い、罵る。
呪われた
母親の腹を裂いて、生まれた化け物。
父親を殺めた、人殺しっ!
化け物はこの町から出ていけっ!!
あまりの言葉の数々に私は顔をしかめる。
聞けば、彼女の母親は、体の弱かったらしく、彼女を生んで間もなく亡くなったらしい。
聞けば、彼女の父親は、彼女を襲う誹謗中傷から守ろうとして、過度の心労と過労で亡くなったらしい。
町の人間は、言いがかりをつけて、自身の不幸を彼女のせいにして、彼女を追い立てる。
彼女を痛めつけることで、町の人間は心を一つにしている。
なんとも痛ましい光景だろうか。
まだ、うら若い少女によってたかって。
これ以上は見ていられなかった。
私は少女を助けることにした。
虫眼鏡を動かして、一つの世界を映す。
そして、彼女に飛び込むように促した。
彼女は驚いた表情の後、私を強く睨めつけながら、虫眼鏡に映った世界を睨む。
その世界は彼女にとって見たこともない世界だった。
いつかの時代のどこかの民家、誰もいないその場所を愛おしそうにみつめて彼女は飛び込んだ。
よっぽど、誰かを痛めつけることで団結していた世界は、不幸な世界だったのだろう。
私の世界でも手を替え品を替え横行している出来事だったから、彼女の気持ちも大いにわかった。
しかし、多少の手違いが起きた。
飛び込んだ彼女がずっと暮らしていた場所に、そのうちマンションが建ち、人が入居してきた。
私は慌てて、もう一度虫眼鏡を動かそうとしたが、その前に入居者は怒り狂う彼女をいなしてしまった。
全く優しい言葉ではないが、彼女にまっすぐ向き合う入居者に、少女は嬉しそうに笑っていた。
かつて化物と罵られた少女は、現代の女性と楽しそうに同居していた。
彼女はとても幸せそうで、彼女に愛された悪い男はとても苦しそうだった。
それは優しい物語ではなかったけれど、それはとても幸せな終わり方だった。
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