最後に残っていたのは何だったんだろう

 少し、しっくりこないまま、虫眼鏡を覗き込んだ私の前に、広がったたくさんの世界の一つ。


 それは、また現代のどこか、一つの部屋だった。


 私は、次の旅をそこに決めた。



 そこには、一人嘆く女性がうずくまっていた。

 彼女は、苦しいと嘆いた。

 彼女は愛した男の不義を知ってしまった。

 それでも、その男を未だ愛しているのだと。

 裏切られたのに切り捨てられない、憎らしいのに愛おしい。

 開いてしまったパンドラの箱を握りしめて、彼女はどうしたらいいのかがわからないと。

 感情と気持ちと欲望と想いを持て余しながら、そう、私に縋るように泣いていた。

 私は彼女に問いかけた。

 貴女はどれを望むのか。

 この箱を開ける前に戻すことはできる。

 そうすれば何も知らず、これまでと同じように幸せでいられる。

 その男の存在を消すこともできる。

 そうすればそんな顔をすることもなく、穏やかに日々を送れる。

 貴女の望みを教えてほしい。

 彼女は、涙を流しながら、顔を歪ませて言った。


 私は彼女の願いを叶えることにした。

 虫眼鏡を動かして、一つの世界を映す。

 そして、彼女に飛び込むように促した。

 彼女はこちらに一度深く礼をして、美しく気高く微笑んで飛び込んだ。

 よっぽど、愛した男との世界は、彼女に執着と恩讐と醜悪な愛を刻んだのだろう。

 私の世界にも裏切りや復讐、醜悪な感情たちが蔓延はびこっていたから、彼女の気持ちも少しはわかるような気がした。

 飛び込んだ彼女は、恨み憎しみ、愛し愛しすぎた男に愛と痛みを与えた。

 どんな理由があろうとも、そこに深い感情なんてなかろうとも、一度裏切ったという事実は変わらないし、消えることはない。

 ただその裏切り者は、傷つけた人間の気がすむまで道化のように躍るしかないのだろう。

 彼女はとても幸せそうで、彼女に愛された悪い男はとても苦しそうだった。

 それは純粋な物語ではなかったけれど、それはとても幸せな終わり方に見えた。



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