次は聖女にきていただこう

 彼女と別れて、また虫眼鏡を覗き込む。

 そこに広がるたくさんの世界の一つ。


 そこには、まるでゲームのような不思議な世界が広がっていた。


 私の次の旅は、そこに決めた。



 ゲームのような世界の城の中、嘆くのは一人の美丈夫。

 整った顔立ちに、少し乱れた長い髪。

 疲れているのか、どこかやつれているようにも感じるが、そんな姿すら妖艶に映る。

 彼が嘆く。


 自身が愛した女が死んだのだと。


 大切に大切に守ってきたというのに……。

 彼女は聖女の役目の中、命を落としたのだと。

 本来、彼女は聖女なんてものではなかったのに。

 危機に瀕したこの国が、勝手に彼女を聖女に仕立て上げて……彼女はそれに応えようとして……。

 彼は誰もいない豪奢な部屋の中、一人、むせび泣いていた。


 ならば、本当の聖女に来ていただこう。

 私は、虫眼鏡を動かして、一つの世界を映す。

 それは、彼がかつて愛した女性と出逢った日が広がっていた。

 私は、彼に飛び込むように促した。

 私の言葉が届いたかもわからぬほど、戸惑いも迷いもなく、一心に愛した女性に手を伸ばしながら、彼は飛び込んだ。

 よっぽど、この愛した者を失った世界では、生きていくことはできなかったのだろう。

 私の世界にはそんなに愛した人間も愛された人間もいなかったから、彼の気持ちはわからなかった。

 飛び込んだ彼は、本当の聖女に国を任せて、自身は愛した女性を鳥籠に囚えた。

 もう命を落とすことがないように。

 もう離れることのないように。

 女性は最初こそ怒っていたけれど、そのうち、まんざらでもない様子で微笑み、与えられた世界を享受していた。

 それは形の良い物語ではなかったけれど、それはとても幸せな終わり方だった。




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