第15話 世界線と世界線収束面

 誘拐、なんだそれ?と訝る龍二に、陽菜は指鉄砲を突きつけた。

「名目上はMと666人委員会はただの研究者達なんだけど、Mや666人委員会とは独立した技術調査班って位置付けのなんでも屋がいるの」

 ばんっ、と陽菜は指鉄砲を打つ真似をすると、龍二はそのまま「やられたー」などと言って身悶えしていた。殴りたくなるような馬鹿さ加減だが、尊敬はしないので一人でやっていてほしい。


 話を元に戻す。

 陽菜からの話しをまとめると、世界各地で芽が出そうなタイムマシン研究を握りつぶし、研究者をMの元に連れて行き無理やり協力させる事。

 つまり未来においても晋也を危機に陥れていると言う事だ。

 Mによるディストピア、というのはこういう類の危機なのだろうか。

 そうして押し黙る俺をよそに、ふいに晋也は身を乗り出して問いかける。

「なあ、陽菜。お前さっき時空神:ユキとして語った事は全て言ったよな?」

「そうだよ」

「ということは、お前は世界の構造については把握しているって事か?多世界解釈については説明できんのか?」

「多世界解釈についてはフェイク情報。Mに目をつけられないためのカムフラージュ。本当の中に嘘を混ぜると、全体が嘘に見える」

「じゃあ世界の構造については把握してないのか」

 少し気落ちした晋也の頭の中にあるのは、タイムリープのことだろう。

 世界の構造さえわかって仕舞えば、少なくとも「タイムリープするたびに過去が改変されるかも」という危険性は減る事になる。それに、その理論の確かさ次第では、ループがなぜ確定しているのか、その原因を掴めるかもしれないからだ。 

 だが、陽菜は至極あっさり「把握しているよ」と言ってのけた。


「本当か!?その理論、詳しく教えろよ!?」

 そういって、立ち上がる晋也。驚くほどの食いつきぶりだった。

 陽菜は、まあ落ち着きなよと一つ苦笑して……

「未来では世界の構造は解明されてるんだ。多世界解説じゃないんだ。世界は世界線と世界線収束面で出来ているっていう解釈だよ」

 陽菜は俺の部屋から転がったストラップを拾ってくると、自身の前にストラップの紐をピンと伸ばして俺たちに披露して見せる。

「世界の構造はこのストラップの紐みたいに、無数の紐が集まったより糸みたいな物なの。いくつもの可能性世界線が重ね合わせの状態になってて、それらが常に無限に枝分かれしてるわけ、全体を見ると一本だけど、ミクロなレベルだとより細かい糸が絡み合うように世界を構成してる。そうした絡み合いの糸は、より大きいレベルで絡み合う」

 そう言うと陽菜は糸の端を摘んで垂らして見せた。


「そして、最終的にはそれらの絡み合った細い糸は、どこかで一つに収束するって予測されてる。この絡み合いを“収束“っていうの。小さなレベルでも大きなレベルでも常に収束は起きていて、それらの収束点をつなぐように世界は因果律を形成している。この因果律は絶対のルール。原因は結果に影響を及ぼす。だけど、世界線理論はそれを“収束“の観点から整備し直した。この世のあらゆる出来事は経過は違っても同じ結果になるって考え方」

「それは全て決定論じゃ無いか?全ての出来事は因果律に支配されていて、だから結果はいつも同じ、っていうのを言い換えてるだけに聞こえる」

「だからこの理論は量子的な理論を入れるために“収束“っていうファクターは厳密に通用しない。本当は“収束“っていう言い方は正しく無い。物凄く適当な、大小無数に存在するオンとオフのスイッチが近いと思う」


 ……要するに、世界はストラップの紐みたいにたくさんの糸がそれぞれ縒り合わされ、さらにそれらも縒り合わされ、といった具合に一本になっているのだが、原理としては無数のスイッチが切り替わっているすごい適当な物、という話か。

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