第12話 陽菜の告白
「ありがとう……」
小さな声でそれだけ言って、再び陽菜は黙り込む。俺はその隣でどうしたものかと考えを巡らせていた。
………が、それにしても。
陽菜は曰く、やはりタイムトラベラーなのだという。今は能力が使えなくなっているというが……
半ば呆れた気持ちで、傍の陽菜を見やる。訊きたい事は山ほどあるが、普段よりも気落ちしたようなその様子に、今まで躊躇ってしまっていたのだ。
「それで、陽菜」
そろそろ落ち着いただろうか、と見計らいつつ俺は改めて陽菜に向き直った。陽菜は相変わらずうつむいたまま、制服姿の肩口にサイドポニーが力なく引っかかっていた。
「お前がその……次元神:ユキというのは、いったいどいう事だ?」
「……そのままの意味だよ。世界線に干渉してた時空神:ユキはさ、私なの」
てっきり目に見えない神の様な存在だと思っていた、と俺が言うと、陽菜は自嘲気味に笑って見せた。
「まんまと騙された?それならよかったよ。カムフラージュの意味もあったんだよね」
カムフラージュ、ということは……だれかの目を欺く意図があったということか。
時空神:ユキが陽菜として世界線に干渉していたことは、もしかして……
「そう、Mと『時の祠』に対するカムフラージュ」
「じゃあ、お前はこの時代の人間じゃないとでもいうつもりか?タイムトラベル能力を使って?」
口に出して改めて思う。ないわー。とてもじゃないが信じがたい。
というかそれ以前に未来からきたやって来た、などというのは、やはりどうしようもなく悲しいことなのだが……バカみたいな響きがあった。
だが、陽菜はそうした俺の葛藤に気づかず、いつになくシリアスな表情で話し続ける。
「本当は、正体を明かさないままでいようと思ったんだけど……よりによって、能力の限界が来るなんて思わなかった。完全に私の失策だ……取り返しがつかないよ」
そうして再び陽菜はうなだれる。
……まだいまいちピンと来ない、ちょっと待て、なんだか話がおかしいぞ。
俺が知っている『時の祠』は二十年前に無くなってしまった。
「なんでMと『時の祠』になぜカムフラージュする必要があるんだ?」
「二十年前?それ、どこ情報?」
陽菜が首を傾げているが、俺もちょっと分からない。確か『時の祠』が二十年前に無くなったという情報は龍二が主張していなかったか?
「龍二がそう言った……いや、調べてもわからないと思うが」
「東龍二……?じゃあ、違うなあ。少なくとも私は東龍二には会ってない。未来から真っ直ぐここに来たんだ」
じゃあ別人なんだろうか……
今俺の知るこの世界で、龍二と陽菜は会っていない事になっている。
「それで?お前は何を知っている?さっき、俺と晋也の話を聞いていたな?」
そうだ。俺にとっては、今はこっちの方が重大なのだ。
なにしろこちとら、この数日というものタイムリープで日々を送ってきた。ループから抜け出せないばかりで、まるで出口の見えない展開だったのだ。ようやく現れた手がかりだ。
もう逃しはしない。知っている事は全部吐いてもらうぞ。
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