第10話 連続してのタイムリープの可能性
「……お前は体験してないから、そんなに冷静でいられるんだ!」
「そうだな。今の俺には未来の事はわからない。正直なところ実感がわかない」
さらっと言い放つ、その軽さが恨めしかった。
「でも、お前の言ってる事を信じていないわけじゃない。お前がしっかりしなきゃ」
晋也の声が沁み入ってくるようだった。
「悪かったな……」
確かに感情的になっても無意味だ。晋也の言う通り、冷静になろう。
「だがしかし、ループが理不尽だというのも事実だ。そもそも原因が違うのに必ず同じ結果に至る、というのが解せないな。これは因果が歪んでいるという事じゃないのか?ループという結果に向かって、あらゆる原因を取りうるわけだろう?」
「ループの原因はもっと大きな視点による、マクロな原因なんじゃないのか?“タイムリープ“したとか、あるいは“俺達が時の祠を探検した“あたりのこととか。その結果としてループから抜け出せなくった。こう考えるなら、因果は歪んでない」
なるほど、と晋也は頷く。
「だが、それでもまだ腑に落ちない点もある。俺達が“時の祠“を探検した事をマクロな原因で説明できるのか?」
あっ確かに……
「でも因果は絶対のルールなんだ。矛盾が起きてはいけない。それを否定したら、この世のルールが否定される。だから必ずループから抜け出せないのには原因がある」
「つまり、“ループから抜け出せなくる原因“がわかるなら、なんとかなると……」
「そうでもないな。少なくともお前のタイムリープには限界があると思う」
「どういう事だ?」
「お前のタイムリープは一日前の水曜日にしか戻れないという制限があるんだ」
「な……」
俺は呆然として聞いていた。
「タイムリープには限界があるのか?」
今まで何度も水曜日を繰り返していたので、一日前の水曜日という制限がある理由は自分でも知らなかった。
そういう事があるという事はわかっていた。なにしろタイムリープは危ない物だと知らされていたし、限度があるとも言われた。それにしても限界が来るのが早すぎる。
地団駄を踏みかねない俺の表情に気づいてか、晋也はたしなめるように言った。
「だが、連続でのタイムリープは可能なはずだ。かなり身体に負担をかけるはずだが、お前のタイムリープ能力がある限りタイムリープは可能なはずだろう」
「連続でのタイムリープ?だったらなにも問題ないだろう?」
「大ありだ。言っただろ、身体に大きな負担をかけるし、お前のタイムリープ能力が存在してる限りってな。お前の能力の制限を忘れたのか?連続でタイムリープして一年前に行くとしても単純計算で365回のタイムリープが必要だ」
言われてようやく俺も気づく。
「365回途方もない数字だな……」
確かに理論上では何十年でも戻ってこられる。しかし、その間に俺の能力が消えていたらアウトだ。つまり俺が行けるのはタイムリープ能力手に入れた“時の祠を探検したあの日“までという事だ。
一度には一日前の水曜日前までしか戻れなくても、連続して使えばいいのだろうと安易に考えてしまった俺が愚かだった。どうやらこの能力がタイムリープ能力だという事を失念していた。タイムリープで自分の親を殺せないように、タイムリープ能力がない頃に戻るのは基本的に無理、という事なのだろうか。むしろ一日前の水曜日に戻れる事がありがたいのだろうか。
つまり、ここまでの話をまとめると……
「結局、何も出来ないという事じゃないか……」
タイムリープ能力があっても。タイムリープしても。
「今のままでは、ループから抜け出せないという事実は避けられないということか!?」
「ちょ、お前!声がデカい!!」
その時、窓の外から大きな音がした。確かに誰かいる気配。
まさか……俺たち以外の第三者に話を聞かれてしまったか!?
思わずろくでもない想像がよぎり、俺は反射的に教室を飛び出していた。馬鹿げた戯言だと聞き流してくれたらいいのだが、後であれこれ聞かれたら面倒だ、と理性がぶつくさと言っているのだがもう遅かった。廊下の階段を駆け下り飛び出していく。
陽菜だった。
さっきの大きな音は、陽菜が転んだせいか。
目が合った。
「おい、陽菜!」
俺の呼びかけにも答えず、すぐに目を逸らした陽菜は弾かれたように踵を返した。運動神経がいいはずのあいつが転ぶなんて、どう考えても様子が変だ。
何かろくでもない、きな臭さを感じる。
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