第11話 時空神:ユキと陽菜

 そもそも陽菜も、以前から不審な点は多かった。中学生の頃から自分より体格の大きい男を一人であっさりとノックダウンさせてしまったり。自分の境遇も一切話そうとしなかった。そもそも陽菜には家族などいるのだろうか?次元神:ユキは、陽菜の家族なのではないのか?

 次元神:ユキという名前は何を意味するのか?

 何かあるかも知れない、と俺の勘が囁く。

「ちょっと直也!急に飛び出してどこ行くつもりだ!?話はまだ途中だろ!」

「話は戻ってから聞く!」


 そう大声で呼ばわって、俺は急いで教室を飛び出した。

 胸騒ぎがする。この展開は、今までなかった。

 俺が晋也に事情を話し、それを聞いて、陽菜は転んだ後どこかへ走り去った。

 本来であれば今日の陽菜はずっと教室に居たはずだ。なのにこの時間にやって来て、俺と晋也の話しを聞いて逃げだした。

 絶対に何かある。そんな気がする。

 校門を出た後俺はしばらくその周囲を、陽菜の姿を求めてさまよった。だが、学校には同じような見た目の女子が多いため見つからない。

 業を煮やした俺は作戦を変更、陽菜の家を目指すことにする。

 陽菜のアパートはそのまま残されていた。インターホンを押してみたが、人の気配はないようだった。

 やはり、引っ越してしまったのだろうか?……そう考えた時だった。


「鍵が開いてる……?」

 部屋の中はがらんどうで、荷物はすでに片付けられ、陽菜の姿も見えなかった。

 額に浮いた汗を拭いながら部屋のドアを開けていく。

 そして、寝室に辿りついた所でいきなりそれを見つけた。

 寝室の一角に、陽菜の手帳が置かれていた。ただし、その見てくれはボロボロに破損し、あっちこちが無惨に破けている。赤色の手帳は埃と傷で白っぽくくすんでいた。

 …………ななななななななんで陽菜の手帳が!?

 えらいことになった。と思う。思うが、頭がついてこない。ヤバい。どうしよう。

 おおおおおおお俺はただ陽菜を追いかけてきただけなのに!とんでもないものを見つけてしまった。だいたいなんで陽菜の手帳がこんな所に転がっているんだ?いつかのように疑問ばかり湧いてくる。というか誰がボロボロの手帳を俺に渡すんだ?そして「誰が」という疑問に、反応する。


「時空神:ユキ……か?」

 これまでのタイムリープでは、次元神:ユキは関わってくる事はなかった。これまでと違う展開。そして、俺の知る限り、この違う展開をもたらしたのは陽菜だった。俺と晋也の話しを盗み聞きし、慌てて走り去った。

 他の場合ならば、時空神:ユキが絡んでいるなんて決めつけもいいところだ。だが、俺は同じ水曜日を何回も繰り返している。何が普通で、何が普通でないかは俺が一番知っている。

 ではやはり、あのボロボロの手帳を置いてあって人物が時空神:ユキだと……!?

 手帳に手を伸ばそうとして、足元をなにかに取られた。危うく転びそうなのをなんとかこらえてこらえて足元を探ってみると大量のゴミが転がっていた。

 陽菜だ。ただでさえ見えにくいのに、掃除くらいしてから引越ししやがれ!と叫びたくなる。

「という事は、やはり、陽菜が……」

 陽菜め、一体なんのつもりだ!?この手帳はなんなんだ!?時空神:ユキとの関係は!?

 例えば俺と同じような能力を持っていて、手帳がタイムリープをしたとか……

 タイムリープ、瞬間移動、出現、消滅。

 それらに、共通しそうなワードが脳内を電撃的に駆け巡る。まさかとは思う、思うが、その可能性を否定できない。

 まさか、まさかとは思うが、陽菜は……

 タイムトラベラーか……!?

 アパートの外に出ると一つの影が走り出した。時折りなきべそのような声で「どうしよう……どうしよう……」としきりに呟く声が聞こえてくる。

「陽菜っ!」

 俺が叫ぶと、影がビクッとして動きを止めると、影は振り向いた。


「直……也?」

 やはり陽菜だった。泣きそうな顔で鼻水まで垂らしている。幼い頃の陽菜と全く変わらない泣き顔だ。

「陽菜、一体何をしてるんだ?」

「………戻れない」

 戻れない?ってなんの話しだ?

 という事は、陽菜は時間の戻り方を知っているのか?

 次から次へと湧いてくる疑問で頭がショートしそうだった。そして混乱している俺をよそに陽菜はがっくり肩をおとし、うなだれた。

「もう戻れないよ……」

 陽菜はシャツをめくり肩の刺繍の様な物を見せてくる。どうみても数字がゼロになっている様だった。

「答えてくれ……陽菜。お前はタイムトラベラーなのか?」

 俺はゴクリと息を飲み恐るおそる問いかけた。


「そう。私が……」

 涙を浮かべた陽菜は、しばしうなだれたまま、かすかにうなずき返し、

「私が時空神ユキだよ」

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