第6話 協力者

「まずい事になってるようだな。俺にはお前の悩みは分からんが」

 晋也は俺を見据えたまま少し目を伏せる。

「でもな直也、タイムリープを繰り返す事でお前の身体にどんな悪影響が出るか分からないし、もしかしたら、時間の輪、つまり因果律から外れるかもしれない危険性があるんだぞ?」

……時間の輪?因果律から外れる?

「SF小説とかSF漫画によくあるだろ?閉じた時間の間を彷徨い続けるって奴」

 晋也の警告により、俺はますます深刻な状況を理解した。彼が指摘する可能性は、決して軽視できないものだった。

「でも木曜日になると水曜日を繰り返すんだよ……」

 俺はまた頭を抱えたくなってきた。気のせいか、胃も痛いような気がする。

「それはかなり深刻だな……時間の輪が破れちまったか、または何かが制御不能になってんだろ。それにタイムリープを繰り返す事は危険なんだ」

 鎮痛剤の効き過ぎた病人のようにうずくまる俺を晋也は静かな表情で見つめて言ってきた。


「お前は、それでももがくのか?」

「だからお前に助けを求めたんだ……」

 俺一人では無理だ。そう悟った。何度タイムリープしても解決の糸口すら見えてこない。だが、幼馴染の誰かの協力があれば、何とか出来るかもしれない。出来ると信じたい。

 もがくために。そしてループから抜け出すために。

「だから頼む、力を貸してくれ……」

「無茶しやがって、お前壊れてもおかしくなかったんだぞ」

 晋也が厳しい口調で言う。

 俺に向けられた晋也の目には怒りと、そして心細げな色が浮かんでいた。

「協力するに決まってるだろ。お前は大切な幼馴染だし、それに!」

 もっとも、俺の視線に気づくと晋也は照れたようにそっぽを向いてしまう。

「それに、お前の辛そうな姿は見てられないからな!」

「すまない……」

 改めて心からそう思う。こんな相談してすまない。心配させてすまない。巻き込んですまない。

 晋也に辛そうな表情させてしまうのが心苦しかった。晋也にはいつでも軽口を叩いて、颯爽として、俺たち幼馴染を引っ張るような人間でいて欲しかった。

 それがどうしてこんな事に。

 だが、うなだれる俺に「……謝るなよ」と晋也は呟く。

「俺はお前の幼馴染なんだからよ。できる限りのことはするぜ!」

 晋也の言葉に俺は胸が熱くなった。

「どうせお前のタイムリープは止まらないんだろ?」

 そこで晋也は苦笑する。

「………そうだな」

 言いつつ俺はスマホの時計を見た。もう少しで水曜日から木曜日に時を刻もうとしていた。


「もう時間がないようだな。これからあたふたするより、もっと対策を練ったほうがいい。直也は水曜日にタイムリープしてそこで俺に事情を話してくれ」

 そう。晋也の言う通り対策を練る事は重要だ。タイムリープの怖さもあったが、晋也が話を聞いてくれるのならその意味は大きく変わってくる。晋也に相談して準備しておけば、その結果も変わってくるかもしれない。

 これまでは一度も上手く行かなかった。俺一人ではタイムリープしても期待は持てなかった。

 だが今度は、俺のように杜撰な行き当たりばったりではなく、晋也が味方でいてくれる。

「行こう」


 晋也が手を差し出してれる。俺はその手を握りしめて支えに立ち上がった。

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