第四回目の水曜日 苦悩
俺はこのループに対して何も対策出来ていなかった。ループから抜け出す方法を何も思いつかない。ループが起きると大抵良くない結果が待っている。どうやってこの無限の水曜日から逃れればいいのか全く見えてこなかった。
どうすりゃいいんだよ………
部屋の中は薄暗れに染まりつつあった。街路樹が夜に向けてライトアップを始める。カップルの姿もちらほらと見える。面白くもなんともない眼下の景色を、互いの腰をあきずに眺めている。
居心地の悪さを覚える。そして怒りすら湧いてきた。
「クソッ!俺がこんなに苦悩してるのにどいつもこいつも幸せそうにしやがって!!」
一体何が楽しいんだ。どうして俺だけが悩まなくちゃいけないんだ。無限の水曜日から逃れる方法が見えないまま、俺の怒りはますます高まる。
その時、突然俺の部屋のドアが開き晋也が姿を表した。
「いきなり教室を飛び出して行ったかと思ったら家に帰っていたのか」
晋也は慎重に言葉を選んでいるようだった。
「家でDQN行為してる暇あったら散歩でも付き合えよ」
DQNというのはネットスラングの一つだ。ただし最近になって使われなくなった。微妙に古い類のマナーが悪いとか常識が無いとか頭悪そうとか、あまりいい意味でしか使われない。
「どうなんだ?散歩行くのかよ」
俺は深々とため息をついた。これまでのタイムリープが間違えていたとは思わなかった。俺が何度も気絶してわかったことも多くある。分かりたくなかったことも多くあるが、とにかく今までやれる事はやった。
だが、ダメだった。俺の試みは失敗した。
しかも打開策は見つからない。
もう認めないといけない。この事態は俺だけではどうにもならない。できれば幼馴染達を巻き込みたくなかったが、なりふりかまっていられない。最悪の結果だけは避けないといけない。俺はうなだれたまま食いしばって、そのままその名を呼んだ。
「助けてくれ……晋也」
「……何か事情がありそうだな」
小さなため息。
「俺に全部を話せ」
「……実はな、晋也。俺は何度も同じ水曜日を繰り返しているんだ。俺だけがこのループを覚えていて……もう何度目かもわからないくらい、同じ水曜日を生きている」
「なんとなくわかってた。確信は持ってなかったけどな」
なん……だと!?
「だってお前目つきが変わったみたいに教室から出てったじゃねーか。ありゃ豹変ってどころの話しじゃねーよ」
唖然とした。次の言葉が出てこない。
俺は目を合わせようとせず、晋也は椅子に座った。
「何があった?」
声が震える。そして堰をったように、俺の口から次々と言葉が溢れてきた。
次元神ユキという少女の事。『時の祠』を探検した事。『時の祠』を探検して俺たちが気絶した事。何回も水曜日を繰り返している事。何もかも説明する。そうして晋也に話す事で、俺が何をしてきたのか、何を見てきたのか、自分で落ち着いて整理する事が出来た。
その間、晋也はあまり口を挟んでこなかった。
そうして三十分程度延々と喋り続けて、伝える事のなくなっな俺は、結論を口にした。
「探検なんて行かなければよかった……」
一人でなんとかするしか無いと思った。絶対にこのループから抜け出すと決意したはずだった。
俺は正直なところ頭が回らなくなってしまった。今の俺ではループを抜け出す方法を見つけ出すなんて無理だ。その事だけは身にしみてよくわかっていた。
「ループから抜け出す方法が分からないんだ………何をしても、どうやっても、同じ水曜日に戻ってしまうんだ……」
「だから同じ水曜日を繰り返している……か。話を聞いた限りじゃ本当らしいな」
そこまで俺の話をじっと聞いていた晋也はしばらく一人で呟いてから顔を上げた。
「どっちにせよ起こったことは覆せない。それは現実だ」
晋也の言葉は、現実を受け入れる苦痛を示唆していた。俺もそれを理解していた。ループから抜け出せない現実を直視することは、心の中で強い打撃を受けることだった。
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