第二回目の水曜日 会話の食い違い 

「はぁ!?お前……確かに探検しただろ!?陽菜と晋也と俺で『時の祠』に入って!!」

「どうしたんだ直也?俺は『時の祠』なんかこの学校に二十年前からねーぞ?それに気絶もしてねーよ。昨日はずっと家で寝てたからな」

「龍二、今日は何曜日だ……?」

「水曜日に決まってんじゃねーか」

 龍二が答えた。

「す……水曜日だと!?」

 俺は驚きのあまり声を上げた。

 昨日が確かに水曜日だったはずだ。

 しかし、龍二はそんな俺の反応にまるで気づかないかのように、あっさりと答えた。

「そうだよ。それに今日の水曜日の夜にみんなでラーメン屋に行く予定だろ?」

 龍二は全く疑うことなく言葉を続ける。その普通さが、逆に俺の混乱を深めた。

「俺どこまで話したっけ……」

 頭の中がぐちゃぐちゃで、会話の流れすら曖昧になっていた。

「ラーメン屋に行く話だろ。今日の水曜日の夜に行くからよ。校門前に集合な」

 そう言って龍二は教室から去っていった。

「はぁ……なんだってんだよ」

 俺は頭を抱え混乱していた。何が起きているのか理解できていなかった。一体何が起きているんだ?昨日が水曜日だったはずなのに………今日も水曜日だと?

 龍二はバカだが人を騙すような奴ではない……ってことは同じ日がループしてんのか!?

 それに『時の祠』がない!?

 俺の記憶は混乱し、何が真実で幻想なのか区別がつかなくなり始めていた。

 頭の中で考える間、自分が何かを見逃しているのではないかという感覚が湧き上がってきた。もしかしたら、俺が経験している現象に関する何か重要な手がかりが、友人たちや過去の出来事に隠されているのかもしれない。

 俺は決断し、友人たちに直接会って話を聞くことを決めた。

 彼らが持っている情報や記憶が、俺の現在の状況を明らかにする手がかりになるかもしれないと感じた。

「まぁ暇だったし。ラーメン屋行くか」

 俺と龍二と陽奈と晋也は校門前に待ち合わせた。


「近くに美味いラーメン屋があるとか言ってたが……」

「ああ、それなんだがな。学校の近所にあるらしい」

「へぇ……どうやっていくんだ?」

 俺はラーメン屋の前で、晋也にふと話しかけてみた。

 頭の中ではまだ整理がついていないことばかりだが、とりあえずこの会話の流れに乗るしかない。

「ああ、それなんだがな。ラーメン屋であってラーメン屋じゃないんだ」

「そんな物があるのか?」

 俺は以前のように少し疑わしげに晋也を見る。

 何か裏があるんじゃないかと思ってしまうのは、これまでの経験からだ。

「まぁ、正確にはラーメンだ」

 晋也はニヤリと笑う。

「何だよ、その言い方」

 俺が問い詰めると、晋也は少し得意げな表情を浮かべながら説明を始め

「この学校さ、水曜の夜だけ宿直の奴がやっているラーメン屋がある」

「いいじゃねーか食えんだから。さっさと入ろうぜ」

 龍二がせっかちそうに言い放つ。

「待て待て、マジでラーメン屋なのか?」

「どうだろうな、美味いラーメン屋だけど、宿直の奴。なんにも話さないんだよ」

 晋也が言いながら、少し困ったように肩をすくめる。

「何だよ?ラーメン屋で無言の接客って……」

 俺は少し驚きながらも、どうしても納得できない部分があった。

 でも、どこか興味をそそられる。

「うーん、ま、それがまた味があるんだよな。なんか、謎めいてる感じでさ」

 龍二がにやにやしながら言うと、俺もその不安と興味が交じった感覚を抱えつつ歩き出す。

「謎めいてるって、お前それただの変わり者の店主だろ」

 俺は思わず笑ってしまったが、結局そのまま龍二と晋也の後を追った。

 足音を響かせて、ラーメン屋に向かう道のりが、ますます不気味に感じられた。

 俺はまだ半信半疑だったが、龍二はすぐに振り返って言った。

「確かに雰囲気のいい店だな」

 確かにラーメン屋としては中々雰囲気のある店だ。

 俺は確かに興味本位でここに来たが、それで規則を無視するのは気が引ける。

 もうこのバカの龍二に注意しても意味がないと思うが、今回も引っかかる部分がある。

「とにかく入ろうぜ」

 龍二がラーメン屋の中にズカズカと中に入って行き、俺はその後に続いて入って行った。

「そんな急ぐなって、ラーメンは逃げねーよ」

 俺は龍二の背中に声をかけながら、店内を見渡す。

「ほら、空いてる席に座れよ」

 龍二が手前の席を指差す。

「……ここラーメン屋じゃなくて宿直の休憩室だよな?」

 俺は龍二が指差した席を見ながら、疑念を口にした。

 確かにカウンターや椅子はあるが、壁際には古びたロッカーや書類棚が並んでいる。

 ラーメン屋というより、学校の備品室を無理やり改造したような雰囲気だ。

「細けえこと気にすんなよ。食えればいいんだって」

 龍二は気にする様子もなく席に座ると、手を叩いて店主らしき男に声をかけた。

「おっちゃん、ラーメン4つ!」

 宿直は何も言わず、無表情のままカウンター奥の小さなキッチンで作業を始めた。

 その動作は無駄がなく、妙に洗練されている。

 だが、俺はどうしても違和感を拭えなかった。 

「晋也も陽菜も龍二に流されて来たんじゃないだろうな?」

 俺は二人に視線を向けた。

 ラーメン屋というより怪しげなこの場所に、なぜ平然と座っているのか、どうしても気になった。

「別に。私は興味があっただけよ」

 陽菜は肩をすくめて答えた。

 その言葉を聞いて、俺はため息をついた。

 やっぱり、こいつら二人とも龍二に流されて来たんだろうな。

 いつもこんな感じだ。龍二が何か言い出すと、陽菜も晋也も何だかんだで付き合う羽目になる。

「陽菜も晋也も龍二に付き合う必要はなかっただろ?」

 俺は二人に向かってそう問いかけた。

 晋也は腕を組み不満げに言う。

「というか、お前こそ俺たちを龍二から遠ざけたいんだ?」

「そういうわけじゃないんだ……」

 俺は言葉を濁した。一番の原因対処法は、あの日、龍二の頼みを断る事だったのだが……。

 だが、どうやってそれを実現する?

 もし本当に水曜日しか跳べないなら、次の水曜日が来るまでただ待つしかない。

 そして、SFゲームの主人公みたいに出来れば記憶を保ちながら、あの日に跳んで龍二の頼みを断るしかない。

 これは賭けでしかない。

 だが、もし成功すれば、現状を変えられる。

 もし失敗すれば……いや、失敗しても何も変わらないか。

 また同じ水曜日が繰り返されるだけだ。

 だが、それが本当に正しい判断なのか、分からない。


 どんな未来が待っているのか、見当もつかない。

 ただ一つ確かなのは、今日の水曜日が終わろうとしている事だけだった。

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