第2話 謎の少女 時空神:ユキ

 再び目を覚ました時、俺は自分の部屋に居た。

 しかし、一つ違うことがある。

 なぜか俺の隣に、白髪で着物を着た少女が座っているのだ……

「おはようございます。直也さんお目覚めですか?」

 白髪の少女は穏やかな声で尋ねた。

「ああ、おはよう……ってうわっ!?」

 俺は驚きながら答えた。

「君は誰だ?つーかなんで俺の部屋にいるんだよ!!」

「私は時空神……『時の祠』の御神体とも呼べる存在です。私の名前は『ユキ』とでも呼んで下さい」

と少女は答えた。

 時空神?時の祠の御神体?馬鹿な!?何を言ってるんだこの少女は?

 ユキと名乗る少女の言動の数々は俺の理解を超えていた。

 こんなSFチックな話をいきなり信じろって方が無理だ。


「わかった……いったん話を整理させてくれ」

 俺は少女が語る内容に戸惑いながらも、冷静に状況を整理しようとした。

 自分の部屋は普通に見える。

 それでもユキとかいう少女は現実にいて、俺の隣に座っている。

「夢じゃないんだよな………」

 俺はつぶやいた。

 しかし、自分の部屋にいる現実感と隣にいるユキとかいう少女の存在感が矛盾していた。

 この状況を理解するのは難しい。

 時空神、時の祠の御神体、という言葉が頭によぎるが、どうしても納得出来ない。


「直也さん。私は幻でも夢でもありません。私は『時の祠』によって時空が歪んでしまったために現れたのです」

 とユキが静かな声で言った。

 その言葉にますます俺は混乱した。

 時空が歪むだと?幼馴染のバカの龍二でも、もっとマシな嘘を思いつくぞ。

「………実際そんなことありえんのか?」

 ユキは穏やかな表情を保ちながら、深くため息をついた。

「直也さん、私の言葉を信じてください。時空の歪みや異常は、人間の理解を超えるものです。『時の祠』は、その影響を受けることがあります」

 俺は彼女の言葉に一瞬考え込んだが、まだ納得はできなかった。

「しかしだな……それが本当だとして、俺たちはどうすりゃいいんだよ?」

 ユキは微笑みながら、答えた。

「まずは『時の祠』へ向かいましょう。そこで、私たちは現象の原因や対処法を見つけることができるかもしれません。」

「『時の祠』に行くっていっても水曜日の夜以外は行けねーし。前に龍二と晋也と陽菜といった時には全員気絶しちまったんだぜ?」

 ユキは考え込んでいたが、やがて微笑みながら答えた。

「あなたなら水曜日に跳べるはずです」

「水曜日に跳ぶ?」

 俺はユキの言葉に疑問を抱きながら、思わず声を上げた。水曜日に跳ぶ?

 そんな意味不明なことを言われても、正直なところ、まだ状況を完全に理解できていなかった。

 ユキは再び静かに微笑んで、俺の目を見つめた。

「はい、あなたならできるはずです。『時の祠』には、時空の歪みが集中しており、その歪みを利用して、過去や未来に『跳ぶ』ことができるのです」

「跳ぶって……アレあれか?SFゲームの主人公みたいに過去改変しろってか?」

冗談混じりに言ったつもりだったが、ユキは微塵も笑うことなく真面目な顔で頷いた。

「その通りです。過去の出来事に干渉し、未来を変えることも可能です。ただし――」

「ただし?」

 俺は思わず身を乗り出した。

「あなたは水曜日にしか跳べません」

「え?紐?」

 唐突な質問に、俺は首を傾げた。

「携帯ストラップならあるよ」

 ポケットからスマホを取り出し、ぶら下がった細いストラップを見せた。

 彼女は俺の携帯ストラップを指でつまみ、優しく揺らした。

「時間はこのストラップのように、いくつもの世界線が絡まってできています。そして、これらの線は複雑に交差しながらも、一本の大きな流れとして繋がっています」

 そう言いながら、彼女はストラップの紐を指先でなぞり、軽く結び目を作った。

「しかし、ときにはこのように結び目ができることがあります。これが『時の祠』が持つ特別な力で、時間の歪みを利用して過去や未来にアクセスするためのポイントとなるのです」

「なるほどな……。でも、この結び目が何で水曜日だけ現れるのか、まだ納得できないんだけど」

 俺は腕を組んで問いかけると、ユキは微笑みながら続けた。

「この結び目が現れる曜日は、宇宙や自然界の周期に影響を受けています。特に水曜日は、時間の流れが最も安定し、かつ歪みを引き寄せやすい日なのです。それはまるで、この紐の特定の部分が緩んだり締まったりするようなものだと考えてください」

ユキが結び目を指で軽く引っ張ると、それがキュッと締まり、次に緩む様子が見えた。

「この状態でなければ、結び目に干渉することは難しいのです。つまり、水曜日こそが、あなたが時を跳ぶための唯一の窓口なのです」

「そんなに都合よく曜日が関係するなんて信じがたいけど……まあ、分かったよ」

 俺は納得したようなしないような気分で頷いたが、彼女の説明は不思議と説得力があった。

「ただし、直也さん。ここは注意が必要です」

 ユキはハサミを持ってストラップを切り離しながら言った。

「この瞬間に無理に違う世界線に跳ぼうとすると、あなたの存在が無くなります」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が一瞬止まるような感覚に襲われた。無くなる? 俺の存在が?


「え、無くなるって、どういう意味だよ?」

 思わず声が震える。

 ユキは無表情でハサミをゆっくりと手放し、ストラップを切った後もその断面をじっと見つめていた。

「このストラップが切れると、紐が二つに分かれて、それぞれの世界線が断絶します。あなたもそれと同じで、無理に時間の歪みを突き進むと、あなた自身がその流れから切り離され、どこにも存在しないことになるのです」

 俺の脳裏に何かが過ぎった。

「存在しない」

 つまり……死ぬってことか?

「時間の流れの中で、あなたが繋がっている世界線が一つでなくなる。繋がりが無くなるということは、あなた自身の存在も消えるということです」

「そんな……」

 言葉が喉に詰まる。

「だからこそ慎重に。もし、あなたが過去や未来に跳ぶなら、世界線をきちんと把握し、どの瞬間に跳ぶかを決めなければなりません」

ユキは静かに言葉を続けた。

「世界線が不安定なままでは、どんなに小さなことでも、引き起こされる変化が想像を超える結果を招くことになります」

 俺はしばらく黙ってその言葉を噛みしめていた。


 SFゲームの主人公みたいにすぐにでも過去を変えたいと思っていたが……

 だがその先に待っているのは、どう考えても自分が消えてしまうという危険な結果だ。

「だから、水曜日に跳ぶのは慎重にしないといけないんだな……」

「そうです。どんなに力があっても、無闇に世界線を変えることはできません。過去も未来も、すべての選択が重要なのです」

 ユキの言葉は、頭の中でぐるぐると回り続ける。

 世界線を操作する力。時間を跳ぶ力。

 だがそれは、使い方を誤ると取り返しのつかないことになり、最悪の場合、自分すらも消え去るという現実。


俺は深く息を吐き、決意を新たにするしかなかった。

これからの選択、そして跳ぶべき時――すべてを慎重に考えなければならない。

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