カタクリ

「カタクリはどうして神様になったの?」

 カタクリは私の出生のことや両親について話してくれたが、未だ彼自身についてはあまり話してくれない。

「、、、オレを神にしたのも人間だ」

「え、、、不本意なの?」

「当たり前だ」

 カタクリはそう呟くと面を持って来た。神職が月峰神を模した面だとカタクリは言うが、あまり似ていないような、、、。

「かつて、この地の人間達は山にむ豺をおそれ、鎮める為に土地を守る神として崇め祀った」思っていたよりも深い理由に少し困惑する。

「カタクリが何かしたの?」

「する訳ないだろ。天変地異や流行り病など、人間ではどうしようもないことを人間達は神の祟りと考え、恐れる。それらが起こった時、人間達は救いを求めて生贄を寄越してきた。それが生き神の始まりだ」

 だからこの地の伝承に生き神が神になる、とは書かれていないんだね。

「生き神の始まりはもうずっと昔だ。、、、時が経てば、あらゆる物はその在り方を変える」

ずっと昔から、生き神というのは続いていた、、、。

 ただ、その在り方が変わっているだけで、根本的には同じこと。

「、、、思いのままじゃないの?」そう尋ねるとカタクリは眉間を摘んだ。

「だとしたら今、オレもお前も此処にはいないだろ」

「う、、、」

「人の言葉を理解し、姿も変えたが、、、得たものより失ったのものの方が多い」きっと、失ったものという中にお母さんも入っているのだろう。

「ずっと一人で山を守って、、、寂しくなかったの?」

「オレにとって山は命に等しい。この山の神となった以上、守り続けなくてはいけない。山が滅ぶのなら共に絶える」

「そうなんだ、、、」軽々しく聞いてはいけなかった気がして、申し訳ない気持ちで頭がいっぱいになる。

「私やお母さん以外にもカタクリのことが見える子はいたの?」

「ああ」

カタクリがずっと一人じゃなかったと知れて、少し安心した。

「、、、この地で生まれた子は生後三十日程経つと、必ずこの社に連れて来られる」

「どうして?」

「初宮参りだ」

「、、、はつみやまいり?」

聞き慣れない単語だ。初めて聞いた気がする。

「この地で生まれた命を祝福するんだ」

つまり、カタクリに赤ちゃんを見せに行く、、、ってこと?

「生まれたばかりの赤子の中に、オレに気付く子は多い。それからまた一年程村で過ごし、再び社に呼ばれる。その頃にはもう殆どの子はオレを見ることはないが、、、マヨイやお前のように、ごく稀にその力を持ち続けることがある」

カタクリは一体、何人の子と出会い、さよならをしてきたのだろうか。

随分前に問われたあの言葉が蘇る。

『置いて逝く側と置いて逝かれる側、どちらが辛いんだろうな』

そういうことだったんだ、、、。

「この地から出た生き神の子はいたの?」

「いない」さらりと、でも悔しそうに言った。

 きっと、私みたいに外に興味を持った子はいたはず。それに、カタクリは生き神の使命を哀れんでいるのだろう。それなのに、どうして、、、。

「この地で使命を果たすことを、当然だと受け入れる生き神の子も少なくなかった。そのような子を外に出してやったとして、果たして一人では生きていけないだろう」

「、、、」

「生き神の力を持った子供は山に招かれ、、、やがてこの山で死に、神とされる。土地を守る為のその犠牲が人には分かりやすく、、、人は信仰を厚くする。だが人はすぐに忘れる。見えないものを信じ続けるのも難しいのだろう。信仰心が薄れると土地は荒れる。土地が荒れると人々は救いを求める、、、そしてこの地に生き神が生まれる」

「犠牲と信仰、、、?」

「人の信仰心というのは、そういうものだ」

 何かを犠牲にして信仰心を保っている。よく理解出来ていないのに、カタクリはそう言っているような感じがした。

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