閑話

 その日の夜は、中々寝付けずにいた。元々寝付きは良い方だが、今日は眠れない。

窓から外を見るが、太陽が昇るまでかなりの時間がある。

 隣の布団で寝ているカタクリを起こさないように気を付けながら渡り廊下に移動する。履物に足を引っ掛け、寝間着姿のまま外に出た。

冬が近付いている時期だからだろうか、風が冷たい。羽織りを持って行けば良かったと後悔する。

 鳥居のところまで歩き、外を見る。麓の村は見えないが、遠く続く道を見ていた。途切れることのない道をずっと、、、。

 灯篭の明かりが道を照らす。今なら少しだけ外に出られそうだ。じっと足元を見る。鳥居をくぐれば待ち望んだ外に行けるだろう。

どうしようか迷っていると、後ろからカタクリが歩いてきた。手には提灯を持っている。

「外を、見ていたのか?」不思議な声色こわいろだった。

「うん、、、」

ぼんやりと灯篭の火が照らす山道を歩けるなら、どれ程幸せなのだろう。

「帰ろう?私、眠たくなってきた」

「、、、、」

でも、カタクリの側にいられるなら、今はこのままで良い。

「あのね、カタクリとお父さんとの会話、少し聞こえたんだ」

「、、、そうか」

 不機嫌そうにも、悲しそうにも見える。でも、何時も通りの顔だ。

何だかとても、ほっとした。

 お父さんはずっと私のことを邪魔だと思っていたのだろう。お父さんと一緒に村に行っても、私を生き神として祀るつもりだった、、、。

カタクリの伸ばした手を繋ぎ、摂社に戻ると行灯に火を灯した。辺りが明るくなる。

「アンズが眠れるまで、何か話すか?」

きっと、私に気を使っている。でも、少し話したかったから嬉しい。

「あのね、、、鳥居から外を見た時、心臓の音が聞こえたの。沢山走った訳でも、緊張していた訳でもないのに、、、」

ただ、ずっと遠くへ続く道を見ていた。

「、、、、、、」

「私は、、、何を選べば良かったの?」

「男が言っていたことを気にしているのか?」

「お父さんが、言ってたの、、、。子供は実の親と暮らすのが一番の幸せだって、、、でも」

 お父さんに手を引っ張られた時、怖いと感じてしまった。

「自分でも我儘っていうのは分かってる、、、。家族に会いたいと願ったのは私なのに、、、」

「人はどうあろうと自分勝手で我儘だ」

「!!」

「、、、お前が何かを選べば、ある者は正しいと言うし、ある者は正しくないと言う。それは別に悪いことではないし、お前には決めることが出来ないことだよ」

 カタクリは目を閉じ、また目を開けた。

「だから、本当の意味で正しい選択というのはないんだ。自分が正しいと思ったことをすれば良い」そっと優しく微笑んだ。

「カタクリはずっと、この山にいるの?」

「オレがこの山から出ることはない」

「そっか、、、」

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