父親

  カタクリから真実を聞いて数日。少しずつ、本当に少しずつだけど、自分の過去を受け入れられるようになった。

あの男性宛に書いた手紙にカタクリは『橘を頼む』と書いたらしい。

「それ、自分が食べたいだけだよね、、、」

「ああ」

 食べたい物を書いても奉納されるとは限らないし、渡り廊下の隅に積まれている樽酒たるざけをどうにかしないといけないのに、、、、、、。

「流石にさっき話した手紙の内容は嘘だ」

「だよね、、、」

 そんな話をしながら境内へ向かう。

拝殿前にはやっぱりあの男性がいた。辺りを見渡している。誰かを探しているみたいだ。

「、、、君!」

 その男性―――お父さんは私を見付け、駆け寄ってきた。手にはしっかりと握られ、しわくちゃになっている紙。

「君が俺の娘か?」

 、、、何で知ってるの?私と顔を合わせるのは今日が初めてなのに、、、。

「あっ、はい、、、」

「良かった、、、やっと会えた、、、今までごめんな。さぁ、帰ろう」

お父さんは私の手首を引っ張る。

 急なことに驚いて頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。お父さんは手を離してくれない。

「い、痛っ、、、」

「手を離せ」

ずっと隣にいるカタクリは普段していない面を付けて、お父さんの腕を掴んでいた。



 五尺程の背丈のある娘の手を引っ張っていると、先程までいなかった少年に腕を掴まれる。

「なっ、、、」

 子供、、、!?いつの間に、、、。何処かに隠れていたのか、、、?

 少年は面を付けていて、顔が分からない。

腕を掴む力が恐ろしい程に強く、指が皮膚を裂き沈み込んでいるのではと錯覚する。

「お前の気持ちも分かる。念願の娘に会えたんだからな」

 そうだ、俺は手紙を拾って、、、その手紙は『お前に罪を償う覚悟があるなら娘と会わせてやる』という内容だった。

罪、、、その単語だけ気がかりだが、、、今はそれよりも。

「お前が反省していないのはよく分かった。、、、この十五年間、お前は何を思って生活していた」

 腕は更にキリキリと軋む。痛みに耐えきれず少女の手を離してしまった。だが、少年が俺の手を掴む力は弱まらない。

「お前がこの子と暮らすようになっても、満足するのはお前だけ。この子が幸せになる未来はみえない。何故ならお前はこの子を愛してはいないからだ」

「、、、娘は此処から出す!子供は実の親と暮らすことが一番の幸せなんだ!」

 少年の言っていることは全て図星だった。俺はこの十五年間、子供のことなど何も考えていなかった。

ただ、周りの目を気にして子供との再会を望んだ。子供を取り返せば、周りから向けられる白い目が減ると思った。

「村で娘を生き神として祀れば、俺はやっと親という肩の荷が下りるんだ!どけ!」

少年の手を振り払わなければ、娘を連れて行けないし、このまま掴まれていたら冗談抜きで骨が折れてしまいそうだ。

「、、、お前は何も分かっていない」

 強く腕を引かれ、膝をついた。

「これはオレがお前に与えた最後の好機だったが、、、残念なことをしたな」

「、、、な、、、」

境内の砂利に手をついたはずが、少し湿った土を掴んでいた。

、、、山の外だ。

先程まで明るかった日はとうに暮れ、周囲に人影もない。

ふと、何かの気配がしたがやまいぬだろうか。

夢かと疑ったが、あの少年に掴まれた痛みはまだ腕に残っている。

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