第6話

懐かしい夢路を追った。

これはまだアンズの年齢が片手で数えられる頃の話。

晴れていれば外で遊び、雨が降れば摂社で遊ぶ、そんな毎日に少し退屈だった。

どうして自分には親がいないのか、どうして自分はこの敷地から出てはいけないのか、当時のアンズはカタクリこそいるけれど、いつも何処かで孤独を感じていた。

ある日、いつも通り不貞腐れながら境内で小石を積み上げて遊んでいたら不注意だったのか、先程積み上げた小石を巻き込んで派手に転んでしまった。

擦り切れた手の平からは血が滲み、涙がボロボロ流れ出る。

「うわぁぁっぁ!」

痛くて、我慢できなくて、誰かに見付けてほしくて、大きな声で泣いた。

幼い子供の拙い語彙力では上手く言葉に出来ているか分からなかったけど、撒き散らすように吐き出した言葉はアンズの本心であった。

だから、届いたのかもしれない。

「アンズ!大丈夫か!?」

手水舎ちょうずやの方で掃除をしていたカタクリが走ってくる。

「頭でも打ったのか?」

かなり慌てているカタクリはアンズを抱き上げ、擦り切れた両手を洗う為、手水舎に連れて行ってくれた。

カタクリは柄杓で水をすくい、「早く治りますように」と言いながら砂を洗い流した。

「ねぇ、カタクリ」

「ん?」

「なんでアンズはひとりぼっちなの?」

カタクリの羽織りを握り締めながら涙目で訴える。

「、、、オレもいるからアンズは一人じゃないよ」

「でも、えほんでは『ともだち』っていうのがいて、おこったりやさしくしてくれる『おかあさん』がいる、、、、ひとりじゃなかったらアンズ、さみしくなかった、、、」

カタクリに言っても意味のないことを泣きながら何で何でとわめく。カタクリだって、私と同じなのに、、、、。

「アンズ、寂しい思いをさせて悪い。オレはお前の側にずっといるから安心しろ」

頭を撫でながらカタクリは言う。

「ほんと?」

「本当だ、約束しようか」

「じゃぁアンズもいっしょにいる!、、、やくそくだよ!」

「うん。約束だな」

そう言い合って、小指を絡めた。

あんなに大声で泣いていたのに、いつの間にか涙は消えていた。

この頃だろうか。私がカタクリに対して恋心が芽生えたのは、、、、。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る