邂逅

 朝餉を食べ終え、カタクリから逃げるように境内の掃除をしている。

竹箒で落ち葉を掃いても掃いても、カタクリのあの悲しそうな顔が頭から離れない。

 不意に、誰かの声が聞こえた。

くぐもっていて、はっきり聞こえないが、男性の声だった。

深緑色の着流しを着た、黒髪の四十代ぐらいの男性。 初めて、カタクリ以外の人を見た。

気付かれないように近付くと、言っている内容がはっきり聞こえてくる。

「、、、、月峰神様、、、、お願いします。どうか、子供をお返しください、、、、」

何度も何度も、拝殿に向かってお願いをしている。手には沢山の野菜やお米などを抱えていた。

(あ、、、カタクリの好きなたちばなもお供えされてる)

「あの男が気になるのか?」

「!?」

いつの間に背後にいたカタクリの声に驚いて、ヒュっと小さな声をだす。

「あの男には妻がいた。だけど、妻が産気づいたと知った時、逃げたんだ」

「でも、あんなに子供のことを思って神様にお願いしてるよ?」

「今更後悔しても、もう遅い。自分がしたあやまちを抱えて、これからも過ごしていくと良い」

カタクリは一体、何を隠しているの?

必死に手を合わせて「お願いします、お願いします」と頭を下げていた男性は、山道を下っていく。

 カタクリは奉納品を厨に持って行った。


 拝殿から渡り廊下を歩き、私の主な住まいの摂社がある。

摂社は畳が敷き詰められた十六畳の広さで、朱色の文机と長持ながもち衝立ついたてが申し訳程度に置いてある。

文机の隣には、大きな白い箱。白い箱には花札、手鞠、お手玉、絵本、おはじき、人形などの玩具が沢山入っている玩具箱。これらは私が生まれる前からこのやしろにあった物らしい。

「昔はよく遊んでたな〜、、、、」

 特に人形遊びが大好きだった。人形でずっと遊んで、生地が破れたら大泣きしたっけ?

「昔も、の間違いじゃないか?」

「違うよ!今もたまに遊んでるけど、、、、」

カタクリはよく私をからかってくる。

「少し雨が降ってきたな。今日は部屋にいるか、、、、」

 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、玩具箱を開けて、玩具を取り出した。

その様子を見ていたカタクリは窓掛け下ろし、行灯に火を灯す。

行灯には何かの紋が掘られている。今まで気にしたことはないが、改めてじっと見るとよく分からない。

「ねぇカタクリ。この紋って何?」

「これは雪月花の紋だな」

「、、、せつげつか?」

「まぁ、四季の、、、春夏秋冬の美しさを表す意匠らしい」

「へぇ〜!」

この紋ひとつにそんな意味が込められていたなんて知らなかった。

それよりも、今は何して遊ぶのか決めないと、、、。

「花札も良いな〜、、、、でも人形遊びも、、、、紙を切って折り紙にして遊ぶのも、、、」

数分唸って考えた結果、花札に決まった。

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