第4話

朝餉を食べ終え、カタクリから逃げるように境内の掃除をしている。

竹箒で落ち葉を掃いても掃いても、カタクリのあの悲しそうな顔が頭から離れない。

不意に、誰かの声が聞こえた。

くぐもっていて、はっきり聞こえないが、男性の声だった。

茶色の着流しを着た、黒髪の四十代ぐらいの男性。

初めて、カタクリ以外の人を見た。

気付かれないように近付くと、言っている内容がはっきり聞こえた。

「、、、、月峰神様、、、、お願いします。どうか、娘をお返しください、、、、」

何度も何度も、拝殿に向かってお願いをしている。手には沢山の野菜や魚、お米などを抱えていた。奉納品だろうか?

「あの男が気になるのか?」

「!?」

いつの間に背後にいたカタクリの声に驚いて、ヒュっと小さな声をだす。

「あの男には妻がいた。だけど、妻が身籠みごもったと知った時、逃げたんだ」

「でも、あんなに子供のことを思って神様にお願いしてるよ?」

「今更後悔しても、もう遅い。自分がしたあやまちを抱えて、これからも過ごしていくと良い」

カタクリは一体、何を隠しているのだろう?

必死に手を合わせて「お願いします、お願いします」と頭を下げていた男性は、山道を下っていく。

カタクリは奉納品を厨に持って行った。


拝殿から渡り廊下を歩き、私の主な住まいの摂社がある。

摂社は十六畳の広さで、朱色の文机と唐櫃からびつが申し訳程度に置いてある。

違い棚には、大きな白い箱が置いてある。白い箱には花札、おはじき、手鞠、お手玉、絵本、人形などの玩具が沢山入っている。これは私が物心ついた頃に奉納された物だ。お手玉はカタクリが着古した着物の生地で作ってくれたやつだが、、、。

「昔はよく遊んでたな〜、、、、」

特に人形遊びが大好きだった。人形でずっと遊んで、生地が破れたら大泣きしたっけ?

「昔も、の間違いじゃないか?」

「違うよ!今もたまに遊んでるけど、、、、」

カタクリはよく私をからかってくる。

「最近、天気が良くないな。今日は部屋にいるか、、、、」

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、玩具箱を畳の上に降ろした。

そして、中に詰められた玩具を取り出した。

その様子を見ていたカタクリは窓掛けを下ろし、行灯に火を灯した。

「花札も良いな〜、、、、でも人形遊びも、、、、久々にカタクリに絵本を読んでもらうのも良いかも、、、、」

数分唸って考えた結果、花札に決まった。







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