その瞳に映るもの

「、、、、ズ、、、、アンズ!!」

「!!」

 心配そうに揺れる黄金色の瞳で見られて、我に返った。

「ずっと呼んでも返事しないし、揺さぶっても上の空だったから、、、、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」

どうやらボーと、していたみたいだ。

「考え事か?」

「考え事、、、、なのかな?」

不思議なことに自分でも分からない。

 取り敢えず、「いただきます」お膳に乗った卵焼きを口に運ぶ。

「美味しい、、、、」

 何時もながら美味しい卵焼きを頬張っていると、頬杖をつきながらカタクリが声を出さずに笑った。

その表情はまるで親が子供を愛おしそうに見ている様だった。

「ねぇ、カタクリ」

「ん?」

「この神社って何の神様を祀っているの?」

不意に頭の中に現れた疑問だ。大した理由もないが、昔から気になっていたことだった。

月峰神つきみねがみ」カタクリは不意に、出窓に座って竹格子が嵌められた窓の外を見ながら言った。

「この山の地主神だ」

「何か聞こえるの?」

「ん?あぁ、、、、」

 カタクリは耳が良い。何か気になることがあるのかもしれない。

「かつて、この山に土地を守る月峰神がいたという。その神は『懸けましくもかしこき神』と呼ばれ、麓の村から厚い信仰を集めていた。その村ではごく稀に、人の身でありながら神の声をキくことの出来る少女が生まれた。その少女は神の御心を聞き受け、村に神託として授けて人々を導いた。故に村では、その神の子を『生き神』と呼び、月峰神と共に崇めたのだという」

 「カタクリ、その人達と知り合いなの?」

カタクリはその問いには答えず、渡り廊下の何処か一点を見つめた。その目は現実の風景ではなく、頭の中に残っている色鮮やかな記憶を眺めていた。

「前回は二十年以上も前だ」カタクリは平坦な声で言う。

「知れば、戻って来れなくなる」

カタクリの瞳の中に、長い黒髪が見えた気がした。目の錯覚だろうか。

「その少女はどうなったの?」

恐る恐る聞くと、ひと言。

「死んだ。子供を産んでそのまま、、、」

 その話をしている間、一度も私と目を合わせてくれなかった。

こんな顔をするカタクリは今まで見たことがない。

そんな時、どうしたら良いんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る