7-2、

「おい。こいつぁ凄いで」


 ライブ配信が終わった直後の、金作宅前でのこと。――


 周囲には午前中の、バトルの跡が生々しく残っている。


 謎メカは警察がレッカー移動しきれず、放置されたまま。前の道路は路面がガタガタで、車両通行止めの標識が立てられている。金作宅正面の塀も半分以上が倒壊し、残りはところどころもげた歯のようにボロボロだった。


 この塀をどうにかせんにゃあ……と金作が、試しに件の文書に載っていたを使ってみたところ、倒れ残った塀の一部が、すぱーんっ、と吹っ飛んだのである。


「見てろよ」


 金作が両手を構え、


「ハ・メ・ハ・メ・ぁ~っ!」


 気合い一発、腕を前に突き出すと、あたかも両手から何らかのエネルギーの圧が出たかのように感じられた。そして次の瞬間、塀の一部がぶっ飛ぶ。


「ほう。こりゃスゲえ」

「次にまた、敵が攻めっ来た時に使えそうじゃ」

「でも、技の名前が“ハメハメ波”!? なんかヤラシいわね」

「そねーなこたぁない。気の所為っちゃ」

「古代の叡智が台無しじゃない!」


 夕闇迫る中、少し遠くでクラクションが鳴った。呼んでいたタクシーが到着したらしい。


 前の道路が通行止めになっているため、離れた場所に停車しているのだろう。四人はタクシーのところまで歩き、乗車して隣町の繁華街へ。……


 チェーン店の居酒屋へ入り、本日はおつかれさん、とビールで乾杯した。


「じゃっどん、あのようなあげなモンが出てくっと、やっぱ奪いに来っヤツがおっとじゃな」

「そうじゃのお。ちいと甘う見過ぎた」

「動画配信も、気をつけなくちゃね。ヤバい情報は出しちゃダメよ。漠然とした科学知識だけにする、とか」

そうだそうだじゃ、じゃ


 早くも料理が何皿か運ばれてきた。男三人が焼き鳥を、笙歌が唐揚げをつつく。倫輔はここで、ビールから芋焼酎へとチェンジする。


「あの謎メカは、誰が作ったんだらーな?」

「だよね。個人経営の小さな工場、ってことはないよねえ」

「背後にデカい組織があっとは間違いなか」


 自分達が置かれている、厄介な状況を実感せざるを得ない。


 今回だって、下手すれば命を落としていたのだ。幸いにして謎メカの製造者がマヌケで、ビーム光線などの設計がマズく、役に立たなかったから助かったに過ぎない。


「まあ、何とかなるさ」


 金作はそう言ってビールを飲み干し、テキーラを店員にオーダーした。


ハメハメ波ゝゝゝゝゝも結構強力っちゃ」

「そうだな。また在日米軍のサーバーいじって、何か強力な武器でも引っ張ってこまいかと思ったんだが」

「ちょっとぉ! それ、シャレになんないよ」

「まあ、ハメハメ波でいいわ。アレなら意外と使えそうだ。オレ達もあの技覚えようえーかなあ

簡単だぞみやすいぞ


 店員を呼び、笙歌が唐揚げ三皿とビールジョッキ二つを頼む。彰善がここで、バーボンに切り替えた。


「笙歌。他になんか、使えそうな技はなかと?」

「う~ん……。実はちょっと、気になる事があるんだけど」


 唐揚げに齧り付きながら、笙歌は倫輔の問いにこたえる。


「ってゆーか、その前にさ、あたしの報酬を決めてよ。今のところ、タダ働きなんだから」

「そうじゃのぉ。……ガトリング、どうする? 財布はガトリングじゃけぇ」


 金作は彰善に尋ねる。


「笙歌はさ、今、どんな仕事をしとる?」

「母校の先生方の手伝いで、単発で現代語訳なんかの話がちょこちょこと入って来て、バイト代程度稼いでる。あと、あちこちの神社の手伝いだとか……。それと、グラビア撮影」

「「「グラビア~っ!?」」」


 三人は思わず、驚きの声を上げた。


 平日の夕刻である。田舎の居酒屋なんて、客が全然入っていない。三人の声が広い店内に響き渡る。


「まあ、お前さんワイどんならグラビアでもおかしくはねえが。じゃっどん、全く見たことがねえど」

「いやいや。そんなメジャーな雑誌じゃないわよ。学会誌の表紙だとか、神社本庁のパンフなんかに時々載ってる」

「なるほどな。水着やら、際どい格好させられるんか?」

「そんなのは、さすがに無いよ。巫女装束だとかスーツだとか、硬めの服装でニコっと笑うだけ」

「ふっ。つまらん……」

「何よぉっ!! まあ、でも、そんな感じで小さい案件ばっかだよ。いっつも金欠」


 笙歌は自嘲気味に言って、ビールをグイと飲み干す。


「それも可哀想だな……。よし、わかった。じゃあ、今回の作業になるべく専念してもらう、ってことで月一〇〇万出そう」

「ううっ。もうひと声っ」

「ほんだら、一〇一万」

「オークションかよ」

「冗談だよ。一五〇出そうださーかなあ

「やったぁ~。ありがとう」

「まあ、それだけの価値は十分あるでな。あ、毎月領収書を切ってくれよくりん


 彰善が、バーボングラスの氷をカラカラ鳴らしながら、言う。


 自作トレードツールを運用し、年にン十億稼いでいる男にしてみれば、一〇〇でも一五〇でも端金はしたがねに過ぎないのだが。


 その癖、安値で買って高値で売る、トレーダーの性格丸出しで交渉してしまう、彰善である。


「それでさ、話を戻すけど」

「ああ。気になる事がある、って話じゃったな」

「うん。それこそ超心理学のドキュメントにしても、多分、あれだけじゃない筈なの」

「どゆこと?」

「続きはWebで……じゃないけど、なんか今回のドキュメントはダイジェストみたいな感じで、他に本編があるっぽいのよ」

「はぁ~!?」

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