7-3、
「ここはテーブルが狭か。ドキュメントの確認が出来ん。移動すっど」
慌ててノートPCを広げようとして、倫輔と彰善が舌打ちする。
チェーン店居酒屋なので、グラスと料理皿が幾つか並ぶと、テーブル上に隙間がない。
「どうする? ファミレスに移動する? ここから歩くと、ちょっとした距離よ」
「それなら……“上海”か」
金作が、徒歩五分、行きつけのスナックを提案する。
「さっきメールが届いちょったんじゃが、今日は丁度イベントらしい」
「おう。そこでよか」
早くも倫輔がノートPCを掴んで立ち上がり、隣にいた彰善もさっさと帰り支度を始める。
「ちゅうわけで、笙歌はどうする? タクシー……は呼ばんでも、家は近いのぉ」
「なんでよ!! あたしも行く! いっつも除け者にしようとするんだから~!」
ピシャっ、と笙歌は金作のアタマを
……といったひと悶着がありつつも、四人はさっさと会計を済ませ、徒歩にて近場のスナックへ移動した。
ちなみに小さな町なので、繁華街と言っても飲み屋の数は少ない。
ラウンジやキャバクラは皆無で、金作らの行きつけといってもスナックが数軒である。残りは婆ちゃんスナックばかりで、三人には敷居が高い……というよりお店スタッフの平均年齢が高い。
(都会暮らしを捨てると、そこだけが不満じゃのぉ)
ボヤキつつ、目当てのスナック“上海”に入った。
倫輔は挨拶もそこそこに、ボックス席にどっかと腰を下ろし、
「オイは芋焼酎のお湯割り」
とお店の女のコ扮するバニーガールにひと声かけ、さっさとノートPCを起動する。
「こっちは〇一~一〇を調
「OK。……あ、オレはバーボンをロックで」
ガトリングも、さっさとドキュメントの確認作業に取り掛かった。
「ウノちゃーん。オレ、ビール」
「あ、私も。大ジョッキで持って来てね」
笙歌も飲み物をオーダーすると、
「ウドさあ、まずは01-04のラスト数行を見てよ」
と、当該箇所を指摘する。
「はあ、ちょっ待て」
「『その他に関しては、主たる文書を見よ』……って感じで書かれてるでしょ?」
「ほう……。
「それから次は、01-09だったかな。やっぱり、『主たる文書を見よ』……って感じだったと思うんだけど」
「ほう……。
「ね。なんかこの文書、いわゆるダイジェスト版みたいな位置付けなんじゃない? それで、他に本編がある……と」
「う~ん……」
腕組みし唸る倫輔と、まさにガトリングの異名に違わぬ、怒涛のマウス無し操作に
金作が呆れ顔で、
「おいおい。お前ら、ちょっとは周りに目を向けりん。一応、みんな頑張ってバニーガール・コスなんじゃけえ」
ビールを抱えてきた、下腹ポッコン幼児体型バニーのウノちゃんと顔を見合わせ、苦笑いする。
ウノちゃんは彰善の隣に座ると、グラスにロックアイスを入れ、バーボンを注いで軽くステアすると彰善の傍らに置く。さらに焼酎のお湯割りを作ると、倫輔の傍らに置いた。
「何、やってんの?」
「「……」」
ウノちゃんが、二人に話しかけるも、何ら応答がない。
「今、ちいと作業中じゃ。こいつらが集中しちょる時は、脳味噌が高回転で稼働しちょるけぇ、あまり話しかけん方がええ」
と注意を促しつつ、金作は早くもカラオケの端末を手に取り、曲を選び始めた。
「ちょっとぉ。また
「そうか。それなら……」
「
「どうせ他に、客はおらんじゃないか」
「あたし達だって迷惑だっつ~の!」
二人が揉めていると、倫輔がふと顔を上げた。
傍らの焼酎グラスを手に取ると、一気にグイと飲み干す。
「
隣の彰善に声をかける。
程なく彰善も顔を上げ、
「そのようだ。海洋学、気象学、天文学……全部、本編が他にあるような記述だ」
「まぢかよ。……で、そいつはどこにあるんだ? 件の石蔵にゃあ、他に何もなかったそじゃろ? 他に、地図でもあったっけ?」
「わからん。地図は
こりゃ参ったのう、と倫輔が腕組みする。
他人事のように、ビールジョッキのお替りを頼む、笙歌。
「土器の表面に、地図は描かれちょらだったよな」
「ああ。一通り見た感じじゃ、
「それなら、土器の底か、内側か」
「そイは見ちょらん。石蔵も、もういっぺん掘り起こしっせ、再確認するか……」
「まあ、どっちにしても、明日からにしよう。今日は飲むでー!」
金作はビールを飲み干すと、再びカラオケ端末に手を伸ばす。
「そうは言ってもなあ。……今回は土器が二〇個で、それでダイジェストだら? 本編って、土器何個分になるだ?」
「じゃ、じゃ。二〇個どころじゃ済まん筈じゃ」
仮に本編が見つかったとしても、今度は土器何個分になることか。探索に、運搬移動。想像するだに恐ろしい。そもそも大量の土器を、どこに保管するのか。
「……よし、キンの字! 金は
「わかった」
そこへ笙歌が口を挟む。
「家を設計するにせよ、建てるにせよ、どのみち時間がかかるんでしょ? その間に並行して、文書の解析作業を進める、と」
「ああ」
「あたし、ひとつ問題を抱えてるのよ。だから……家の設計をさっさと済ませて建設の段取りが済んだら、四人でどっか移動して、
あたしの家、来客が多過ぎるのよ、と笙歌が愚痴をこぼす。
仕事にかこつけて、様々な客が笙歌のもとへ顔を出すのだ。打ち合わせと称して食事や飲みに誘われたり、その応対が相当に煩わしい。
「仕事をダシに、あたしに会いに来てるだけっぽいのよ。もう、ウザくてたまんないの」
「なるほどなあ」
「大概、電話なりメールなりで済むのにね……。作業に専念しづらいのよ。だからどこか、静かな場所に避難したいわけ」
美女あるある、の悩みなのだろう。笙歌は変女だが、黙っていれば誰もが認めるセクシービューティなのだ。
「よし、わかった。バカンスを兼ねて、一ヶ月ばかし海外にでも行くか」
「わ~い。やった~っ!」
飛び上がって喜ぶ、笙歌。その勢いで、景気づけとばかりシャンパンをオーダーする。
店にストックがなく、慌ててバニーガールコスのまま外へ買いに走る、ウノちゃん。
「で、どこに行く? あたし、地中海辺りがいい! スペインとか」
「スペイン、
「オイはタヒチか、モルディブ辺りが良か」
「ええなあ。じゃけど、一ヶ月もおったら退屈っちゃ」
しばらくああでもない、こうでもないと揉めた後、両極端の希望の真ん中を採って、フィリピン・セブに決定した。
「ホテル代が安い。移動も五時間。まんぷく丸や吉兵衛の事を考えると、長距離移動は避けるべきじゃん」
「そうじゃのお……。フィリピンは、現地メシはマズいが可愛い女のコが多いっちゃ」
「あのねえ……。一応、合宿なんですけど」
「よかったなあ笙歌。セブはスペイン系の
「ど~でもえ~わ!!」
笙歌のツッコミが、スナックの店内に響き渡った。
その後、大いに酔っ払った三人が暴走に暴走を重ね、それを止めるべく倫輔が、
「オイの芸を見ろ!」
とパンツを下ろして、チ◯毛をアロマキャンドルで燃やし始めるまでバカ騒ぎが続いた。それで一瞬にして騒ぎは収まったものの、四人はめでたく、お店から出禁を食らった。
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