6-3、

 二日後の昼前、件の三人組に動きがあった。


「ほら、来たぞ。ガソリンが届いたらしい」


 彰善が三人に同報メールを送る。


 その足で金作の部屋へ行くと、倫輔も笙歌も前後してやって来た。


「どれどれ」


 金作が部屋のガラス窓を開け、バルコニーに出て下を覗き込む。丁度、件の男二人が大きなドラム缶二つを、えっちらおっちら軽トラに載せ、どこかへ運び去る様子が見えた。


「ほう。出発らしい」

「じゃったら、オイどんも出るぞ」

「そうだな……。早めに戻るか」


 各自、急いで部屋に戻ると荷物をまとめ、ホテルをチェックアウトした。倫輔のRVで金作宅へ。


「車が心配だ」


 金作が三人を順次、軽トラで送還し、車をそれぞれの自宅に退避させる。


「一応、念の為……」


 彰善は自宅に車を置くと、家に入り太刀を持ち出してきた。古備前正恒、ニ尺四寸。


「じゃあ、あたしも……」


 笙歌も自宅から薙刀なぎなたを持ち出してきた。長い薙刀は軽トラの荷台に乗り切れず、屋根から斜めにロープで括り付けて運搬した。


 こうして夜となり、明けた翌朝。――


 一〇時前くらいだろうか。遠くから、ズシンっ、ズシンっ、という音と振動が響いてきた。


「なんだなんだ? こっちに近付いて来るぞ」


 四人はソファから立ち上がり、音のする側の窓へと飛び付きカーテンを開けた。


「うわっ!!」


 一斉に声を上げた。


「おいっ! なんだありゃ!?」

「土偶じゃねーか」


 巨大な遮光器土偶が、金作宅のすぐそばまで迫っているのである。


「ほーら、出た。謎メカだ」

「マジかよ! デケえ。かなりデケえ」

「何であんなモンが……」


 四人、バタバタと玄関へ移動し、外へ出てた。


「あらあらあら~。タマキンさんと、そのお仲間かい?」


 遮光器土偶のスピーカーから、女の声がした。


「多分、あいつよ。あたしが喧嘩した、あの女の声よ」

「そうか。やっぱあの三人組か」


 程なく、一〇mを超える巨大な遮光器土偶が、斜め向かいの畑を曲がり金作宅前の道路に姿を現した。

「は~い、全国の女子大生の皆さ~ん♡ 今回のぽっちゃりでっぷりメカが登場しましたよ~ぉ♪」

「名付けて“遮光器土偶メカ”でまんねん」

「うふふふふ。いいよぉカマエル。アンタ、やっぱ天才だねえ♪」


 テンションあげあげの三人組。スピーカーから大音声で、三人の声が辺りに流れる。


「やっぱ謎メカで正解か。再現度がスゲえのぉ」


 呆れ顔の、金作。


「やたら、リアルじゃのお」

「スゴい! ……でも、バランス悪いよねえ。土偶そのまんまじゃん。短足で、足首が細い」

「そうだな。前後も厚みがなくてペラペラじゃん。あんなもんで、素早く動き回れるのか? 力学的に、機敏な動作に向かんぞ。ただのハッタリじゃねじゃん!?」


 笙歌と彰善の指摘に、


「ギクぅ~っ!」


 という、ひょろガリ出っ歯男の声がする。


「黙ってなさいよ~カマエルっ!! あんたの声が、外にダダ漏れじゃないの!」

「はいは~い」

「……というわけで、タマキンさ~ん♪」

「なんじゃ?」

「例のブツを、こちらに大人しく渡しなさ~い。こちとら、あのブツが狙いなんだよ」

「例のブツ?」

「アンタが動画で公開していたブツだよ!」


 ボンキュッボン美女・オシャンティがヒステリックに怒鳴りつける。


「はあ、アレかい。どこにやったかなあ!?」

「誤魔化すんじゃぁないわよ。吐かないと、アンタの家をぶっ潰すわよ~っ」

「ほう。どうぞどうぞ」


 んアっ!?、とスピーカーを通して三人がずっコケる音。


「ボロいし配置が気に入らんけぇ、建て替えてもええよ。キレイに更地さらちにしてくれ」


 不敵な笑みで煽る、金作。


「じゃけど、やるなら全部、一気にやってくれ。中途半端に壊すなよめぎんさんなや

「そうかいそうか~い! それならこの必殺・遮光器土偶メカで、アンタの家を派手にぶっ潰そうじゃないの~! カマエル、やっておしまいっ!!」

「ガッテンだ~っ!」


 そーれ、と足を上げる遮光器土偶メカ。


 が、片足が一m程しか上がらない。体勢も、多少ふらついている。不格好極まりない。


「わはははは」


 思わず笑い転げる、金作ら四人。


「なに笑うてまんねんっ!」


 バーボイの怒鳴り声と共に、遮光器土偶が金作宅の塀を蹴飛ばす。ドスっ、という音がして、塀の一部がいとも簡単に倒壊した。


 意外にも、かなりの破壊力がある。


「おいおい、マジでぶっ壊しやがったな! 適当に壊すめぐなら、後で修理代請求すっからな」

「あ~はははっ。どこに請求するんで~すかねえ♪」

「請求先なんざ、すぐ判るぞ。ホテルのシステムをハッキングして、ガソリン代の請求先を辿りゃあ判る。カード情報でも銀行口座でも芋づる式に」

「あっ。しまったぁ~」

「うわ、バレてまんがなー」

「こうなったら徹底的にやるんだよ~っ! カマエルっ、バーボイっ、やっておしまいっ!!」

「「ガッテンだーっ!!」」


 遮光器土偶メカが再び足を上げ、塀を蹴倒そうと足を上げた瞬間、倫輔の巨体がメカの足に飛び付いた。


「だぁ~っ!」


 そこへ彰善が素早く飛び込み、低い姿勢から居合で斬りつける。


 一〇mを超える遮光器土偶メカが、わずかにふらついた。


「ダメじゃ。タイミングは悪くなかったっちゃけど」

「わちゃあ。古備前正恒が刃こぼれした」


 倫輔がぼやき、彰善も長曽祢虎徹を持ってくるべきだったとこぼす。


「あはははは。ざまぁみろ~。もっとやっちまいな!!」

「「ガッテンだーっ!!」」


 遮光器土偶メカは勢いづき、さらに塀を蹴倒す。辺りに響く、轟々たる破壊音。


「関節じゃ! ガトリング、関節を狙え」


 倫輔がそう叫び、自らも壊れた塀の破片を素早く掴むと、土偶メカの足首をガンガン叩き回す。


「どうにもならん。得物のチョイスを完全に誤ったわ。謎メカ想定だったなあ。ロケットランチャーなんてすぐには手に入らんし……、せめてデカいハンマーでも用意しておけばよかった」

「丸太でもでん、よか。着地の瞬間に転がせば、コケるじゃろなあ。こりゃぁ失敗じゃ」


 二人はぼやきつつ、なんとか土偶メカの体勢を崩そうと、縦横に駆け回る。


「こりゃヤバいわ。急いで納屋を探して、何か持ってくるか」

「何言ってんのよ。アレをやるわよ!」


 金作のぼやきに、笙歌が厳しくツッコむ。


「わかった。ぶっつけ本番じゃけど、やってみるか」

「うん。タマキン、あんたがメカを持ち上げなさい。あたしがメカの重心を崩すから。それなら倒せる筈よ」

「いや、待て待て! 今、あいつをそのまま倒すと、道路と向かいの家が崩れる」

「そうか……。そうよね。どうしよう」

「ウドさあ。ガトリング。連中を向こう側に九〇度、向きを変えられんか?」

「ああ、やってみる。お前ら二人も、そっち側に移動しろ」

「了解っ」


 小声で指示を出す彰善に従い、金作と笙歌がすかさず移動。彰善と倫輔も適宜位置を変えつつ、土偶メカに立ち向かう。

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