6-4、

「チョコまかチョコまかと、面倒臭い連中だわねぇ! カマエル、何とかならないの~?」

「はいはいは~い。大丈夫で~すよぉ。アタシに任せなさ~い。全国の女子大生の皆さ~んっ、カマエルさんの“ぽっちゃりでっぷりメカ”が大活躍で~すよぉ、見てますか~ぁ?」

「もう、ええっちゅーねん!」


 遮光器土偶メカが足を上げた瞬間、倫輔が飛び付いて相撲技をかけ、彰善が愛刀でメカの足裏を攻撃する。


 その都度、バランスの悪い遮光器土偶メカはわずかにグラつくものの、依然、状況は変わらない。せめて向きだけでも変えたいが、そう都合良く動いてもくれない。


「ダメじゃ。オイより重てえ」

「当たり前だ。……つかこの素材、何だらー?。オレの刀でもヒビすら入らん」


 倫輔と彰善がボヤく。


「あはははは~。そりゃそうですよ~。な~んたって超合金ゝゝゝですからねえ♪」

「超合金っ!? おもちゃかよ!」


 金作宅、正面側の塀が、既に三分の一ばかし倒壊している。なおも暴れ回る、遮光器土偶メカ。


 おもての道路もあちこちボコボコに陥没している。損害額は、合わせて数百万円といったところだろうか。


「ったく、ちょこまかと動き回って面倒な連中だねぇ! カマエルっ、このメカには何か、飛び道具は無いのかい?」

「あ~りますよぉ~。ほら、バーボイ。ビーム光線を発射ぁ~っ!」

「ガッテンでまんねんっ。ほな……プチっとな!」


 なんだとビーム光線!?、とおののく、金作ら四人。


 すかさず土偶メカの目が光り、怪光線が真っ直ぐゝゝゝゝに飛んだ。


「うわっ!!」


 土偶の目の高さは、おおよそ一〇mほど。ビームはその一〇mの高さを維持したまま、遥か向こうへと飛んだ。


 農村ゆえ、一〇mもの高さの建物はない。ビームは何にも命中することなく、村外れの林に飛び、木々を少し焦がして消滅した。


「ふう。大丈夫じゃん」

「危ない危ない。死ぬるかと思うたで」


 四人は胸を撫で下ろす。


「カマエル。これ、射出方向をコントロールでけへんのんか?」

「あ……。忘れてま~したぁ」


 てへぺろ、と舌を出すカマエル。ズっこける、その他全員。


「なんだいなんだいっ!! 全く、カマエルは抜けてるねぇ~っ! あとでお仕置きだよ~っ」

「急いで作ったんでぇ、設計ミスで~した。アハハのハ~ぁ」

「ったく、抜けてるねえ! いっつもコレじゃないの~っ!」

「仕方ないでしょぉ~。設計二週間、製造二週間の、トータル一ヶ月で作ったんで~すよぉ。むしろ褒めて下さいよぉ~」


 スピーカーから漏れてくる声に、脱力する四人。


 いや、これだけの巨大メカを一ヶ月で製造したのであれば、それはそれで驚異的なのだが。……


「まあ、必殺巨大メカで脅してぶっ壊して~、あっさり解決~っと。そう考えてたんで~すよ~! 武器であいつらを殺しちゃったら、全国の女子大生の皆さ~んからSNSで苦情殺到でしょ~っ!?」

「女子大生はもうええっちゅーねん!」

「そうだよそうだよーっ!! 大体、悪の秘密組織の人間がSNSなんかやってんじゃないわよ~っ!」

「あっ、それもそうで~すねぇ~」


 なんじゃこいつら、と呆れる四人である。


 まあ、しかし金作達にしてみれば、他に武器が無いならばむしろ好都合ではないか。ほっと胸を撫で下ろす。


「バーボイっ! ビーム光線がダメならダメで、あいつらをタコ殴りにしてや~んなさ~い!」

「ガッテンでまんねんっ。あらよっと!」


 攻撃の予兆に一瞬緊張する四人。


 が、土偶メカの小さな拳は、四人の頭上数mでモニョモニョと動くだけ。


 腕も短いし、そもそも全体のバランス自体が悪いため、何の攻撃の役にも立たない。


「ありゃまぁ……。こ~れも設計ミスで~したぁ」


 今度こそ派手にずっコケる、四人。……


 土偶メカのコックピット内では、カマエルの出っ歯アゴにオシャンティの右フックが炸裂した。


「アイタタタタ~っ」

「ほんま、アホでんなあ」


 三バカのコントがひと段落ついたようである。


「タマキンっ! こうなったら、いくわよ」


 我に返った笙歌が、金作に促した。


「いや、まだ早い。あのメカの向きが悪い」

「アレで、何とかするのよ」

「はあ……。大丈夫か?」

「向きは、あたしが強引に何とかするから! 要は気合いよ、気合い。タマキンはメカを軽く持ち上げて!」

「わかった!」


 笙歌の言うアレゝゝとは、まさに“太古の叡智”のことである。


 縄文文書もんじょに書かれていた、あの技。ライブ動画収録時、笙歌がまんぷく丸を宙に浮かせた、あの技のこと。


 縄文文書には、他にも現代科学では到底説明不可能な、驚異的な技が幾つか載っていた。だがこの状況で咄嗟に使えるのは、アレのみだろう。いわゆるサイコキネシスである。


 金作は両手で印を組み、ゴニョゴニョと何かを小声で唱える。そしてメカの動きを眺めつつ、


「今だっ!!」


 気合を込めた。


 それに合わせ、笙歌も素早く何かを唱えると、


「やあ~っ!!」


 気合と共に、右腕をメカへと向けた。


 途端、巨大な縄文土器メカがグラリと大きく揺れる。


「ああっ。もうちょい」

「いや、あれでいいから。もう一度いくわよ」

「おう」


 再び気を集中させつつ、ゴニョゴニョと唱え始める、笙歌と金作。


 気合一閃。


「だあ~っ!」

「やあ~っ!」


 今度はメカが、ふわりと一mばかし跳ねた。


 そして数十度向きを変えながら、後方にゆっくり、そしてドテンと倒れる。


 これぞまさに、縄文の叡智。……


 現代科学では全く説明のつかない、謎の力である。


 強烈な力を使ったわけではない。特定の人間だけが扱える、特殊な力でもない。難解な呪文を長々と唱えたわけでもないし、長年の過酷な修行を必要とするわけでもない。


 金作は、一〇mを超える巨大メカを持ち上げる、という明確なイメージを脳裏に浮かべ、そして短いフレーズを口ずさんだ。笙歌はその、わずかに持ち上がった巨大メカを、右後ろに倒すという明確なイメージを脳裏に浮かべ、同じく短いフレーズを口ずさんだだけ。


 金作と笙歌の呼吸も、見事に合っていた。会心の一撃、といったところである。


 ズシ~ンっ、という音が響き、地がわずかに揺れた。金作宅から隣の草藪空き地にかけて、横たわっている遮光器土偶メカの巨体。うまくメカの向きを調整できたお陰で、向かいの宅地への被害はない。


「あわわわわ」

「「アイタタタタっ!」」


 スピーカーを通し、メカ内の三人の悲鳴が外に漏れる。


「よし。やった!」

「上手いこといった」

「こいつぁ……。シンプルだけど、最強の技じゃなあ」


 四人のガッツポーズ。


「昨日のうちに、車を移動しておいて良かったわ」


 倫輔が胸を撫で下ろし、彰善と笙歌も頷いた。


 土偶メカは、道路をまたいで金作宅の塀をゴッソリなぎ倒し、肩から上は隣の荒れ地に倒れ込んだ。まさに普段、三人が車を駐めている位置である。外車三台、総額ン千万円が危うくおシャカになるところだった。


「おいおい、どうするのよ~カマエル。メカが倒れちゃったじゃないの~!!」

「ご安心下さいオシャンティ様。ちゃ~んと手は打ってありま~すよぉ」

「どないしまんねんな」

「それぇ~っ! 必殺、自爆ゝゝっ!!」

「「うわぁ~~~~っ!」」


 ドカンっ、という轟音が響き、遮光器土偶メカ全体から煙が上がった……かと思いきや、何故か左足だけがボカンと破裂した。


「ありゃりゃりゃりゃ。不発……」

「「お~~いっ!!」」

「だめだこりゃ~……。よし、脱出~っ!」

「へっ!?」


 再びメカの頭部辺りで、ボコンっ、という音がすると、何やらゴロっと転がった。


「あれれれれ。メカが倒れちゃったんでぇ~、脱出装置がうまく動きませ~ん」

「「あららららら……」」


 呆れるコクピット内の二人。ずっコケる四人。


「なんだ、こいつら!?」

「とにかく、捕まえよう!」

「爆発、大丈夫か? ガソリン大量に搭載してんだろ?」


 四人は恐る恐る、メカの頭部へと……つまり隣の空き地側へと移動する。


 が、三人組は既に、奇妙な三連自転車に乗り込んでおり、


「えっほ、えっほ」


 と道路の向こうへと飛び出した。


「なんじゃぁ、あの自転車チャリんこは!?」


「とにかく追えーっ!」


 四人は慌ててバタバタと追いかけるも、わずかな差で取り逃がす。二、三〇〇メートル程追いかけるが届かず、諦めて立ち止まった。


「まあ、いい。とりあえず追い払った」

「そうね」


 金作宅に戻る。


「どうする、このメカ?」

「知らん」

「まあ、警察に被害届を出そう」

「遺失物届けもな。これ、売れるんじゃないかじゃん? それで被害額の補填が出来るかも」

「あ、そりゃ良かアイデアじゃ」


 というわけで、警察に顛末を届け出て、このケッタイなバカ騒ぎはとりあえず一件落着となった。

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