5-2、
「おい。あのトラック、高速道路を使う気か」
咥えタバコでハンドルを握る岩切が、苦々しげに呟いた。
うわあ、と後部座席に座る六人が嫌な顔をする。
トラックは一度、自社の営業所に立ち寄ったが、作業員を四人ばかし下ろしただけで、そのまま走り出したのである。挙げ句、向かった先が高速道路のインターチェンジだった。
「ルート便じゃなく、直送かよ」
「こりゃあ、このまま出張になりますなあ」
「うわ北上ルートか……。この出張は長くなりそうですね。参ったなあ」
独身の三人はまあ、良いが、残る三人は家族持ちだ。黒木などは顔をしかめつつ、スマートフォンを取り出し嫁さんにメールを打ち始める。
「仕方ねえ。何としてでも行き先を突き止めるぞ」
岩切は、高速道路へとハンドルを右に切った。
そんな彼らの思惑などいざ知らず、引越トラックは数時間走り続け、関門海峡を抜ける。山口県に入ったところで、やっと美祢市の美東サービスエリアに立ち寄った。
「おお。やっと休憩か」
「ふう、良かった。しょんべん我慢してたんだ」
「オレも」
七人は慌ててトイレに駆け込んだ。
さすがに引越会社のドライバー達も、暫くは休憩をとるだろう。が、彼らがいつ走り出すか分からない。七人は手早く、飲み物や食べ物を買い込むと、岩切の車に戻る。ついでに懸念の給油を済ませ、スタンバイ。
はたして三〇分後、引越トラックが動き始めた。
「思ったより早かったな」
「あ、そうか。交代で運転するのか。だから休憩が短いんだ」
「そのようだな」
そういう岩切も、既に若手職員と運転を交代し、疲れ切った顔で助手席に座りタバコをふかしている。
冬場である。時刻は既に午後五時を過ぎ、辺りも暗くなってきた。
「あのトラック、どこまで行くんだ?」
「まさか夜通し走るつもりじゃないですよねえ」
「大型なら、中に仮眠をとるスペースがあるけどな。あんな小型にそんなスペースはねえ。どこかでインターを下りて、宿をとる筈だ」
「なるほど」
岩切の言う通り、前を行くトラックは広島市のインターで下り、市内のとあるビジネスホテルの駐車場へと入った。
「ふう……。よし、みんな今晩はここで一泊だ」
何食わぬ顔で、引越会社のドライバー二人の後に続き、ホテルのフロントでチェックインの手続きをする。
「あのぉ。お二人はどちらまで、荷物を輸送しているんですか?」
「済みません。業務に関する事を、他人に言ってはダメなんです。そういう規則がありまして」
「はあ……。なるほど、そりゃそうですよね。失礼しました」
引越スタッフらと並んで宿泊カードを記入しつつ、岩切はさり気なく行き先を探ろうとしたが、あっさり失敗。
(ダメだこりゃ)
素直にあとを追うしかないようだ。他の六人もげんなり顔である。
「いや。まあ、いい。追いかけるのは今日だけだ。ひとつ、うまい手を思い付いたぞ」
シングル一部屋、ツイン三部屋を取り、岩切のシングルに全員が集まると、岩切はおもむろに口を開いた。
突然の長距離移動、そして成り行きで出張が決まり、皆疲れ切った顔をしている。
「どうするんです?」
「こいつを使う。オレの、予備のスマホだ」
「ほう」
「こいつをフル充電するだろ。で、明日朝イチで連中のトラックに仕込む。そうすりゃ連中がドコへ移動しようと、GPSで追跡出来る」
「あ、なるほど」
「さすが岩切さんだ」
翌、早朝。まだ辺りは薄暗い中、岩切らは引越トラックの側面、
仕込みは万端。部屋に戻り、自身のスマート端末にインストールしたGPSアプリで、受信状況を確認する。
果たして予備スマート端末は、アプリ上の、現在地点を指していた。
「うん、大丈夫そうだ」
「いけそうですね」
「よし。オレ達はこのままチェックアウトして、一旦引き上げるぞ。トラックの行き先が判明したら、改めて準備万端で現地に直行だ。わかったか?」
「「「了解っ!」」」
皆、部屋に戻り、帰宅すべく荷物をまとめ始めた。
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