4-6、
「ったく、どいつもこいつも使えねえ!」
首を竦める職員二人を前に、岩切は大きな溜息をつき、目をつぶると左胸のポケットからタバコを取り出した。
「岩切さん。ここ、禁煙ですってば」
「うるせえ!」
愛用のジッポライターを無造作に、膝に滑らせるなり一瞬で点火。流れるような所作で口に咥えたタバコに火を点け、次の瞬間ぱちんと音を鳴らしライターのキャップを閉じる。
その間、一秒足らず。煙草を吸わない二人からすれば、手品でも見ているかのような手際の良さである。
「もう一度、詳しく説明しろ。……まず、例の男は不在だったんだな」
「そうです。何度か玄関の呼び鈴を押しましたが、出てきませんでした。ざっと外から確認しましたけど、照明も点いていなかったんで、不在と判断しました」
「ああ」
「それで、中村と二人で、そっと庭の方に回って見たんです。門から入ってすぐ、母屋。その脇を抜けて奥に入ると、広い庭があります」
先輩格の黒木が、岩切に金作宅の構図を説明する。
「その一番奥に、こんもりした盛り土があったんですよ」
「大きさは、直径が一〇mくらいですかね。高さが一mくらい。円墳に見えなくもない」
黒木の説明に、中村が付け加える。
「ははあ……。噂のヤツは、それか」
「多分、そうでしょうね。全体は草で覆われていたらしいんですが、半分近く、草が無くなっていました。土の色も変わっているようで、いかにも一度掘り返して埋め戻した……みたいな」
なるほどな、と黒木は煙を吐きつつ頷く。
「で、二人してそいつに近づいたんです。そしたらいきなり、ビリビリと感電したわけでして」
「電気ショックか何か、仕掛けられていたようです」
「死ぬかと思いましたよ。……これ、労災適用されますかね?」
黒木と中村の話に、岩切は再び溜息をついた。
「ンなわけねーだろ! 傷ひとつ
「えーーっ!!」
「よし、わかった。オレはこれから、上と善後策を講じる。来週、改めてヤツの家に乗り込むぞ。オレも同行する」
そう言うと、タバコの火を荒々しく灰皿でもみ消した。
所変わって、太平洋を一望できるリゾートホテルの一室。――
「オシャンティ様。やっぱ教育委員会の連中、ダメでまんねん」
「そうかい。使えない連中だねぇ~!」
アヤシき三人組が、奇しくも金作達四人と同じホテルに滞在していた。
いや正確に言えば、当県は田舎ゆえ、まともなホテルといえばここ、バブル期の遺産たるこのリゾートホテルに限られてしまう。なので必ずしも偶然ではないのだが。
三人組は、とある組織のボスの指令で、
作戦立案は痩身、出っ歯の男。カマエルである。
彼が“タマキンのブラブラ日本男児Ch.”を分析。金作が過去、メントスコーラで村民達にドッキリを仕掛けている動画シーンから、周辺の地形を調べ、所在地を特定した。それを教育委員会にタレ込み、連中を金作宅に乗り込ませたのである。
「まあ~、想定の範囲ですよ~ぉ。無能な連中に追い込みをかけさせ、最後に我々が乗り込む。連中が首尾よくブツを確保できれば、そ~れを我々が奪う。連中がダメならダメで、我々が直接乗り込んでぇブツを奪えばいいんで~すよぉ。カ~ンタンな話ですよ~」
「そうかいそうかい。カマエルはいつも冴えてるね~♪」
「メカの準備もバッチリですねん。タマキン宅の近所の林に、もう隠してまんねん」
「そうかいそうかいそうかい。段取りもバッチリかい。バーボイも今回こそ、しっかりやるんだよ~」
上機嫌の、オシャンティ。
「それじゃあ、アンタ達は気合い入れて、準備を進めるんだよ。アタシは……ああ、そろそろ予約の時間だね~」
いそいそと部屋から出ていこうとするオシャンティに、
「ん? オシャンティ様はどこ行きまんねん?」
「アタシ? エステの予約があるんだよ」
「ははあ、行き遅れの悪あがきってぇヤツですね~ぇ」
「誰が行き遅れだいっ!! あたしぁ、まだ二六歳だよ!」
0.13秒後、オシャンティの右フックがカマエルの出っ歯アゴに炸裂した。
プンプンと怒りつつ、自室に移動したオシャンティ。軽装に着替え、ホテル内のエステサロンへと向かう。
「いらっしゃいませー」
「三時で予約している、佐々川だけど」
「佐々川様ですか。……三時にはまだ、ちょっとお早いですね。いま暫く、そちらのソファーに掛けてお待ち下さい」
「なに言ってんだい!? アタシを待たせる気かい!」
スタッフが止めるのも聞かず、施術ブースのひとつのドアを勝手に開け……ようとすると、中にはまだ先客が居た。八頭身のボンキュッボン美女である。
丁度施術が終わったばかりらしく、立ち上がって着替えようとしていた。
「キャァ~~っ!!」
「あらあら。カワイいコじゃないの~ぉ。アンタにゃ~まだ、エステなんて要らないよ。さっさとそこをお
「はぁ!? 何よ、失礼な!」
慌てて、手持ちの服で裸体を隠す、ボンキュッボン美女。
「佐々川様、困ります!」
「そうよ。あんたが出ていきなさい」
「うるさいっ! あたしゃ今、機嫌が悪いんだよ! 小娘にエステなんて、百年早いっ!!」
「な~んだ。ババアなんだ……」
「誰がババアだいっ!! あたしぁ、まだ二六歳だよ! ったく、どいつもこいつも」
「二六ぅ!? あたしと同い年じゃん。同い年の癖に、ヒトを小娘呼ばわり?」
「はぁ!? 同い年の癖に、ヒトをババア呼ばわりかい? ますます腹立つわねえ!」
たちまちボンキュッボン美女ふたりの、醜い口論が始まった。口論はやがて掴み合いとなり、ガチの乱闘へと進展した。
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