4-4、
「全然ダメですわ。玉澄金作、当分帰って来そうにないですな」
「連絡もつかんそうです」
白い壁の、無機質な会議室である。
広さは二◯畳程だろうか。これまた無機質な、折りたたみテーブルと折りたたみ椅子が並ぶ。立て直したばかりの庁舎ゆえ、全てが真新しい。
現状を報告するのは、件の二人組である。
「そうか……。参ったな」
報告を聞きつつ眉をひそめるのは、上司らしき五〇男。いかにも仕事が出来そうな雰囲気を醸してはいるが、ネクタイを緩め襟元のボタンをだらしなく外している。
「さて、どうするか……」
「そりゃまあ、玉澄金作の帰国を待つしかないでしょ」
「そういうわけにもいかんのだ」
五〇男は渋い顔で、胸元のポケットからタバコを取り出し、口に加えてその先に火を点ける。
「どうして? 急ぐ必要もないでしょ。そもそも情報も不確かですし。玉澄という男の側から届け出があったわけでもなし、工事でもやってて急いでいるわけでもなしわけでもなし……」
「上から
「上?」
「とある県会議員だ」
「はあ!?」
「もう既に、貰うモンを貰っているらしい」
「なんですかそれ!? 収賄じゃないですか!」
「政治献金名目だ。違法にはならん」
「はあ、なるほど」
ブカブカと灰色い煙を撒き散らす、五〇男。黒木――二人組のうち先輩格の方――が目をショボつかせる。
「岩切さん、ここ禁煙ですよ」
「知らん」
どこからともなく取り出した灰皿をテーブルの上に置くと、灰を落とし、なおも吸い続ける。
「とにかく、何とか玉澄金作とコンタクトを取るぞ。手段は問わん」
「何か良い手がありますかねえ。既に何度も、玉澄宅を訪問しているんですが」
「その、留守番の男は、なんて名前だ?」
「名前は聞いていません。金作は自分の、弟のいとこの……えっと」
「嫁の旦那だとか言ってましたっけ」
「はあ!? 何だと!」
岩切と呼ばれた五〇男の、タバコを持つ手がピタリと止まった。
「弟のいとこの、嫁の旦那ぁ!? 何じゃそりゃ! お前ら、アホか!?」
「ん? ……ああっ!!」
二人は顔色を変える。
「お前ら、おちょくられてるんだよ」
岩切は苦々しげに、このバカタレがと吐き捨てると、灰皿の上で乱暴にタバコをもみ消した。
「よし。まずはその、留守番男の名前を聞き出せ。で、中村は市役所に掛け合って、男の素性を確認しろ。市役所がゴネるようなら、オレにすぐ報告しろよ。オレが上を動かして住基ネットを調べさせる」
「はいっ」
「黒木。お前は文化財関連の法律を確認しろ。強硬に現場へ踏み込む、口実を何か見つけろ」
「はあ、了解しました」
二人が去ると、岩切は両手でこめかみを軽く揉みほぐし、それから再びタバコを取り出し咥えると火を点け、会議室中に煙を撒き散らし始めた。
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