4-3、
次の週の、火曜日。再び金作宅に来客があった。
「金作さん、まだ帰宅されてませんか?」
黒木、と名乗る先輩らしき男が、金作に質す。
「まだですねえ」
早くても来年か、再来年では……と金作はいい加減に答える。
「う~ん、そうですか……」
二人は頭を抱え込んだ。
「あいつが帰ってきたら、連絡しますよ。名刺を下さい」
「はあ。お願いします」
割とあっさり、二人は引き上げた。
しかし三日後、またまたやって来た。そして同じやり取りがあり、すごすごと引き上げる二人。
とはいえ、またもや次の週に二人はやって来た。
「こちらから金作さんに、連絡は取れないのでしょうか?」
食い下がる。
「そりゃ無理でしょう」
「どうして?」
「だって、内モンゴルかチベットですよ。……いや、ウイグルだったかな?」
「でも携帯持ってますよね、金作さん」
「砂金掘りなんて、どうせ辺境の地でしょ。携帯電波が届くと思います?」
「あ、そうか……」
諦めて帰って行った。が、それでも懲りずにさらに次の週、来訪する二人。……
(うわ。まぢで面倒臭え)
金作は居留守を使った。
――パオ~ンっ♪
――パフパフっ♪
――ヒヒ~ンっ♪
――ばふっ♪
何度か賑やかに、インターホンが鳴る。しつこい。
金作は、そっと傍らのノートPCを開くと、ホームセキュリティのソフトを起動。玄関前の監視カメラの様子を伺う。
「留守ですかね」
「そのようだなあ」
玄関前の、二人の会話が丸聞こえである。
二人はそのまま暫く佇んでいたが、そのうち黒木と名乗った先輩格の方が、
「よし。ちょっと庭を見てみよう」
と言い出した。
「えっ!? いいんですか?」
「ちょっと状況確認するだけだ」
「でも、カメラがあるって話でしたよね」
「構わん。何か適当に誤魔化せばいい。『呼んでも出てこられなかったから、庭にでもおられるのかと様子を見ただけですぅ』とか何とか、な。口実なんざ、どうにでもつけられるだろ」
「はあ。なるほど。それもそうですね」
庭の方へと回ろうとする様子。
(おいおい)
金作はそっと立ち上がると、忍び足で庭に面した座敷の方へと移動。金作の意図を察したのか、その後ろに付き従う、まんぷく丸。
金作は、座敷縁側の窓ガラスを静かに開けた。
「行けっ、まんぷく丸! 不審者を撃退せよ!」
小声で、しかし鋭く指示すると、まんぷく丸は弾かれたように反応し、
「わふっ!!」
と鳴いて外へ飛び出した。ワンワンワンっ、と大声で鳴きながら、二人の方へと全速力で走って行く。いや、もふもふ過ぎてあまり迫力はないのだが。
とはいえ程なく、その先で、
「「うわぁあぁっ!」」
と男二人の情けない悲鳴が上がった。
(わはははは。エラいぞまんぷく丸♪)
――腰兵糧は武士の嗜み。
備蓄食糧としてまんぷく丸を飼い始めたつもりだが、まさか番犬として働いてくれるとは。……
そんなことを考えつつ、金作はそっとリビングに戻り、監視カメラ映像を確認する。
案の定、二人はまんぷく丸に足を噛まれ、痛そうに足を引きずりつつ
「よしよし。よくやった」
尻尾をパタパタと振りつつ、戻ってきたまんぷく丸の首筋を撫でてやる。その口元には、わずかに血が滲んでいる。
(まあ、コイツが連中を、ズボンの上から噛んだところで、大した怪我は負わせてないだろう……)
キッチンの引き出しから“チュルっとな”コンポタ味を一本取り出し、
「そなたの働き、見事であった。お前は今日から備蓄食糧兼、番犬じゃ。褒美をとらす」
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