3-6、

 ――パコンっ、スチャラカチャンポロペロリン、スッポンポンっ♪ ぱふぱふっ♪


「さあっ、始まりました。みんな大好き“タマキンのブラブラ日本男児Ch.”のお時間っ! 本日は、前回公表しました大発見の続報をライブでお届けします。勿論、いつも通り無料でご視聴頂けます。いよ~っ、太っ腹出っ腹っ!」


 その代わり、内容を気に入って下さった方々はジャンジャン拡散して下さい。いやいや遠慮は要りませんよ……と、いつも通りの金作のオープニングトークである。


 すかさず、拍手喝采の効果音。


 フレームには既に、男三人が並んで座っている。効果音や字幕は、彰善が傍らのノートPCを操作し、ライブ映像に適宜挿入していく。


「前回動画では、わたくしタマキンがとんでもない大発見をした、という公表を致しました」


 物凄く精巧に作られた、見るからに古墳時代後期以降だろうと思われる精巧な石蔵。そこから何故か縄文土器が二〇個出てきた。しかもその中には、神代文字の刻まれた土簡はにふだが大量に収まっていた。――


 それらのダイジェスト映像が、彰善のPC操作にて流れる。


「それを、こちら……友人のウドさあが調査研究し、なんと全て縄文時代に作られたものである、と判明しました」

「うむ。放射性炭素年代測定の結果、土器の封も、それから精巧な石室も、共に七五〇〇年ばかし前に作られたと判明したとです。当然、その神代文字――トヨクニ文字――も縄文時代から存在した、と断定出来ます」


 頷く倫輔の顔を、カメラがアップで映す。


「はい。そしてその、トヨクニ文字で書かれた土簡を、全てスキャンしひらがなに変換。デジタル文書化しました。これは本来、数十年はかかるだろう作業量なのですが、それを、あちらに座っているガトリングの力で見事に効率化。わずか数分でデジタル化を完了しました」


 今度は彰善の顔がアップで抜かれる。


「なおガトリングは、今回の調査研究の資金的スポンサーでもあります。彼はマタチューセッ◯ス工科大学にて金……」

「マサチューセッツや!」

マラゝゝチュー……」

「マサチューセッツ!」

「その、何とかいうエロエロ大学で金融工学を学び、自作の自動売買ツールを使用したデイトレードにて、今やナント、年にン十億を稼いでおります。……元手は私タマキンと、ウドさあの出資した数百万円だけだったんですけどね」


 そんな彼が、今回の調査研究に全面的に資金提供してくれています、と金作は説明する。


 ――うわ。イケメン億万長者かよ。

 ――結婚して~~っ!

 ――やっぱ全・男の敵!


 本日のリアルタイム視聴者数は、なんと普段の二〇倍以上である。画面を流れるコメントが多過ぎて、一時的に映像がほとんど見えなくなる。


「というわけで、ここまでの作業は順調に進捗したわけですが、ここからが大変なのです。土簡に刻まれた文書を、全部、手作業で現代語に訳さなければなりません」

「そン、文字がトヨクニ文字っちゅうて、表音文字やっとです。いわば、ひらがな五十音の羅列じゃっとですよ。……皆さん、全部ひらがなの文章を、すんなり読み下せますか? 出来んでしょ!? ちゃんと現代の、漢字混じりの平易な文章に変換する。こイは、どうしてもどげんしてん手作業になっとです」


 倫輔が、横からそう補足する。


「……なんですけど、今回、ここでもガトリングが活躍してくれました。彼が、いわゆる作業簡略化ツールを自作しまして」

「そうです。皆さんのPCにもIME――日本語変換機能――が載っていますよね。あれの、エンジン部分のフリーソースを入手しまして」

「そうそう。彼はまたもや、それを魔改造したわけですね」

「です。PCのOSは、元々英語圏の人間が設計開発してます。だから多少、各国語向けにローカライズを施したところで、文法が根本的に異なる日本語と相性が悪いわけですよ。そのせいで、皆さんもお気付きのように、IMEは妙にポンコツなのです」


 入力した文字列の先頭を、助詞と認識して変換を試みたり、活用語尾と認識して見当違いの変換を試みる。……


 IMEがそういった、日本語の文法としてあり得ないロジックになっているのは、元々が英語圏の文法を前提に設計されているからだ、と彰善は言う。


「そういった欠点を全部訂正し、かつ古語辞書データと組み合わせました。とはいえ一般的な古典文章よりも、今回のドキュメントの方が圧倒的に古いですから、そこは辞書学習機能を強化することにより効率化を図る……という設計です」

「これって、こうやって口頭で説明しても、何が何だかちんち◯ぽんぽんですよね。我々も実際に使ってみて、漸くそのスゴさを実感しました」


 金作の補足解説に続き、視聴者のコメントが怒涛の如く、画面を横切る。


 もはや画面がコメントだらけとなり、全く読めない。


「そういうわけで、我々はこの縄文文書もんじょの解析に着手したわけですが、色々と驚くべきことが判りました」


 そのように金作が切り出すと、すかさず倫輔が補足解説を試みる。さすが幼馴染だけあり、台本など無くとも呼吸はピッタリである。


「うん。まず、今回の縄文文書――今後は“縄文文書もんじょ”ち呼称しましょう――は、間違いなく日本語じゃと判明したとです。平安以降の古典よりはずっと古いが、どう見ても日本語じゃった」

「日本語ってのは、昔はウラル・アルタイ系――北方ルーツ――だと言われていましたが、現在では『系統不明の孤立語』――つまり何らルーツの存在しない、全くのオリジナル――だと言われています。かつその成立も、世界最古級。六〇〇〇年以上前だろう、というのが定説化しつつあるそうです」

「じゃっとです。今回の縄文文書はまさに、そイを証明しちょっとです」


 七五〇〇年前の文書が見つかった。それは間違いなく日本語だった。お陰で我々の古典知識で、どうにか解析作業が進められる……と判明した。ガトリングの作成したツールが活きるのだ。


「さて、お待ちかね、ここでもう一人の友人を紹介しましょう。宮部笙歌、カモーンっ!」


 金作のコールに、目の覚めるような巫女装束でフレームインする、笙歌。


 すかさず、画面が膨大なコメントで埋まる。


 ――いよっ、待ってました。

 ――巫女衣装、萌えぇ~~。

 ――いや、やっぱ前回みたいにバニーガール・コスの方が良い!

 ――是非ともオレと、お付き合いを前提に結婚して下さいっ。

 ――ヤロー三人は要らんから、美女だけアップにしろ!


 笙歌は倫輔、彰善の反対側、金作の左隣に袴の裾を折って着座。


 その所作が、いわゆる付け焼き刃のコスプレイヤーなどとはまるで異なり、なんというか趣きがある。堂に入っている、とでも表現すべきか。


 視聴者もそう感じたらしく、コメントが止まらない。


「笙歌の家は代々、神主でして、ガキの頃から古典や漢文を読み漁っていた“変女”です。名門・お茶呑女子大学の出身で、色々とそっち方面の研究をやっています」

「あははは。笙歌です、よろしく~」


 視聴者に向かって小さく手を振る、笙歌。


 またぞろ流れる、なるほど腑に落ちた……といったコメント。


 とはいえ、その後半は、


 ――コメントやめろ。美女が映らんぞ。


 といった苦情コメントが増え始め、程なくピタリとコメントが止まった。


「笙歌はいずれ、神主になって神社を継ぐんか?」

「いや、その気はないんだけどねえ。でも一応、大学在学中に神職資格は取ったよ」

「ふ~ん……。まあ、そういうわけで、今回は止む無く、古典や漢文のエキスパートたる彼女の助力を得ました。というか今後の調査研究は、どうしても彼女主体となりそうです。我々としては大変不本意なんですが」

「ちょっとぉ、何でよ!!」

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