2-2、

「土器編年、っちゅう研究があっとです」


 倫輔の説明と同時に、土器の画像と解説字幕が表示された。


 ――土器編年とは、土器の模様からおおよその製造時期、時系列を特定する研究。


「出土した縄文土器を見ると、そン模様から“縄文早期”の土器じゃと判っとです。加えて、年代測定の結果……」

「そうなんです。皆さん、もうお分かりでしょう。土器もその封も、石蔵も、縄文時代早期――今から七五〇〇年ばかし前――に製造されたものだ、と判明しました! 当然、中の土簡はにふだも縄文時代早期の物であると言えるわけです!」


 皆さん、学校の歴史授業で教わったことを思い出して下さい。


 縄文時代に高度な文化が存在した、と教わりましたか!?


 文字があり、立派な学問や技術があった……と教わりましたか!?


 今回のわたくしタマキンの発見は、それらを完全に覆す大発見であり、また学者連中の縄文歴史観をカンペキに覆す証拠となり得るものなのです!――


 金作は大見得を切って自信満々に語った。


「そしてそれは、まさに天才歴史学者たる親友、ジョーズ・ポ◯チンズ大学にて東洋史学博士号を取得した、ウドさあこと西条倫輔の結論なのですっ!」


 すかさず、ファンファーレの効果音。


 一呼吸おいて、


 ――なにそれ。すげぇ!!

 ――それって完全に、オーパーツじゃん!!

 ――ウドさあの方言が意味不明やぞー。翻訳字幕よろ!


 などといった視聴者コメントが、怒涛の如く画面上に流れた。


「さて、次はこちら」


 金作がカメラに向けて、土簡の現物ゝゝを掲げた。


 ライブ動画には、その土簡の表面がどアップで映し出される。


「このように、ビッシリと文字らしきモノが彫り込まれたハニフダ――粘土板に文字を刻んで焼き上げたモノですね――の話へと移りましょう」


 裏方たる彰善の操作により、画面上に豊国文字の画像が映し出される。


 その右側には、土簡のどアップ。


 西条倫輔の解説が始まる。


「もうお解りでしょう。これは神代じんだい文字ち言われちょるモノです。それもトヨクニ文字ちゅうて、大分県境から宮崎県北部にてよう見つかっちょりもす」

「そうです。補足しますと、一概に神代文字と呼ばれるものはたくさんあって、どうやら古いものは縄文時代から存在したのです。中でも今回話題にしているトヨクニ文字が、まさに縄文早期に存在した……と、今回証明されたわけです」


 ――神代文字の存在を、日本の学者は認めていない。

 ――しかし現に、全国各地に神代文字が残る。その種類も豊富。

 ――伊勢神宮の奉納品にも神代文字が書かれている。

 ――それらがいつから存在するかは不明。

 ――だが今回、トヨクニ文字は少なくとも縄文早期に存在したことが判明。


 と字幕が表示され、さらに数秒後、チーンッ、という効果音と共に、


 ――学者共よ。観念して事実を受け入れよ!


 と、毛筆どアップにて表示。彰善の演出は、なかなかに凝っている。


「さて、ここで私タマキンの優秀なる友人を、もう一人紹介しましょう」


 金作はそう言うと、ガトリング、カモンっ!、と芝居がかったジェスチャーで彰善をコールした。


 彰善が画面を横切るようにして、モバイルノートPC片手にフレームイン。大柄な倫輔の傍らに座る。


「金井彰善です。周囲からは“ガトリング”と呼ばれてます。よろしく」

「はいっ。この男もまた、あの名門マタチューセッ◯ス工科大学を卒……」

「言うと思ったわ! マサチューセッツ工科大学だわ」

「そうそう、その、何やらエロい名前の大学を首席で卒業した、ITスペシャリストであります。またデイトレーダーとして日々、ン億を運用し、年に二ケタ億円を稼ぐ凄腕でもあります」


 ドヤ顔で彰善を紹介する、金作。


 すかさず自らPCを操作し、オペラ“パルジファル”の荘厳なファンファーレを鳴らす、彰善。


 ――キャ~っ!! イケメン!

 ――抱いて~っ!

 ――金持ちでイケメンとか、全・男の敵め!


 といったコメントが、怒涛の如く画面上に流れる。


「自分ばっか派手なファンファーレ、流しやがって。ズルぃちゃ」


 不服顔の金作。ニヤニヤ笑う、倫輔。


「わははは。どうじゃどねーじゃ!!」


 金作がカメラに手を伸ばすと、画面は彰善の顔ではなく、ジーンズの股間のアップになった。


 慌ててPCを操作し、股間付近にモザイクをかける、彰善。


 何か余計、卑猥な絵となった。たちまち画面上に流れる、怒涛の視聴者コメント群。


 数秒後、フレームは再び彰善のバストショットへと切り替わる。


「さて、このガトリングですが、今回物凄く重要な役割を果たしてくれています。彼のお陰で、この古文書こもんじょ――仮に“縄文文書もんじょ”とでも呼びましょうか――の解析に革命をもたらしました」

「じゃっとです。普通の学者であれば、研究室の学生を総動員しても数十年位かかる解析作業を、ガトリングはわずか五分に縮めたとです」


 画面はあの時の作業風景ムービーに切り替わった。合わせて、彰善の解説が加わる。


「これは大量の土簡の、スキャン作業風景です。こうやって一枚一枚、スキャナーを使って土簡表面のトヨクニ文字を読み取ります」


 土簡は曲面なので、それをスキャンし平面画像として補正する必要がある。


「そういったソフトは、スキャナーを購入すると、おまけとして付いてきます。ですがそれらはあまり性能が良くないんですよ」

「だそうですね。で、彰善が工夫を施すわけです。ご覧のように土簡は曲面ですから、これを平面画像として補正をかける」

「実は、こういった様々なソフトを、世界中の天才プログラマーが作っているんですよ。で、それをプログラムソースごと公開していて、ご自由にお使い下さいと提供してくれているのです」


 有名なところで言えば、遺伝子配列の解析ツールである。


 現在発見されているウィルスの遺伝子配列は、デジタルデータ化されていて、幾つかの学術機関がデジタルデータを一般公開している。


 その、解析ツールと遺伝子データの両方をダウンロードすれば、ウィルス免疫学の専門家ならずとも、科学的分析が可能なのだ……と彰善は言う。


「ですから昨今のパンデミック騒動においても、そういったフリーのツールやデータを個人的に取得し、独自に解析を行い、早くから“人造ウィルス説”――プランデミック説――を唱えている方々が沢山いました」

「うわ。まぢかよ!?」

「そうそう。……というわけで皆さんも、各種著作権フリーのツールを色々と利用してみて下さい」

「なるほど。で、今回の作業において、ガトリングはそれらをどう利用したんですか?」

「ええ、まずはスキャン作業ですね。デコボコ曲面の土簡表面の文字を、平面に書かれた文字だ、と論理的に変換しスキャンする」

「ふむふむ」

「それを一文字分ずつ画像データとしてバラす。これもフリーのツールに頼っています」

「ほう。……で、それからトヨクニ文字との照合ですね」

「そうそう。これもまた、フリーツールを利用しています。私の作ったツールにて、わざわざ三つのトヨクニ文字テーブルと照合をかけ、より念入りに照合しています。その上で五十音に自動変換。これもまたフリーツールを利用しています」

「なるほど」

「ほいでそれを、土簡一枚ごとに一テキストとし、ファイル出力する。そういったユーティリティソフトを三〇分で組み上げた」

「すげえ」

「それを、全・土簡をスキャンした後に実行したわけです。そうして全ての土簡を一気に解析、デジタル化しました」


 私が製造したのは、そういった便利なフリーツールを組み合わせ、全ての処理を一括し作業時間を短縮化するユーティリティです……と彰善は語る。


「そげなごつ、ガトリングは簡単に言うちょっとですけどね。これを学者連中が昔ながらのアナログ作業でこなすと、誇張抜きで数十年かかっとです。何しろ土簡が四〇〇枚もあっとですから」


 傍らの倫輔が、ギョロッと大きな目をクリクリさせながら言った。なかなかの説得力である。


 ――きゃぁっ。さすがイケメン!

 ――今晩の予定、空けておくので連絡下さい。

 ――ウドさあでもいいです。あ、オレ、男ですけど良いですよね?


 いつも増して、視聴者コメントが大盛況である。

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