二、

2-1、

 ――パコンっ、スチャラカチャンポロペロリン、スッポンポンっ♪ ぱふぱふっ♪


 チンドン屋のお囃子の如き、軽妙かつ珍妙なサウンドが流れ、“動画”のタイトルがコールされた。


「さあっ、始まりました。みんな大好き“タマキンのブラブラ日本男児Ch.”のお時間っ! 本日は、ぶっちゃけ有料級の大特番をライブでお届けします。ですが勿論、いつも通り無料でご視聴頂けます。いよ~っ、太っ腹出っ腹っ!」


 その代わり、内容を気に入って下さった方々はジャンジャン拡散して下さい。いやいや遠慮は要りませんよ……とタマキンこと玉澄たますみ金作のオープニングトークである。


 すかさず、拍手喝采。


 あ、いや、これは本物の拍手ではなく、フリーの拍手音声素材をミキシングしただけなのだが。……


「皆さんは小学校中学校、高校で歴史を教わりましたよね。教科書にはあたかも、歴史なんて何もかも判明し切っているかのように記述されています。また学校教師もそれを、全て分かったかのような顔で我々に教えますね。さらにそれを、テストにおいて正解と設定する」


 金作はインチキ臭い標準語にて流暢に語り、そして一呼吸おいた後、


 ――いやいやそれは間違いだ。


 と力強く否定した。


「実はそれって、全くの間違いなんですよ」


 カメラの前の金作は、そう断言する。むしろ確たる事実と判明している事の方が、圧倒的に少ないんだ、と。


「今回、なんと大発見がありまして、私ことタマキンはそれをぢかに体験しました。今回の動画では、それを詳しくリポートしたいと思います」


 どどんっ、と大太鼓を叩く効果音。


「幸い、私タマキンは優秀な友人に恵まれていまして、一流の人材が揃っているんですよ。今回は彼らに登場して頂きましょう。……まずは一人目、西条倫輔みちすけ―っ!」


 即座に、カメラは倫輔の上半身を大映しにする。


 身長一八〇センチ超え、ギョロ目の巨漢である。


「おどんな、西条ごあす」


 慇懃に頭を下げた。


「彼はガキの頃から優秀なんですよ。ストレートで日本最高峰、頓狂とんきょう大学に合格しまして」


 で、わずか一週間で退学した、と金作は続ける。


 ――え~~~~~っ!?


 という、効果音。


 今回のライブ動画収録には、トレーダーにしてITスペシャリストである彰善あきよしの協力があり、いつもより多少、演出が凝っている。


「いやいやいや。頓狂大学っちゅうても、その実態は相当にアレアレ~やっとですよ。オイはそイにすぐ気付いたんで、さっさと退学届けを出して……」

「そう。そして米国の名門、ジョーズ・ポコチ◯ズ大学に……」

「ジョンズ・ホプキンズじゃ! このバカチンが!」


 すかさず、


 ――きゃ~っ。おげふぃ~んっ。

 ――放送禁止用語www

 ――チャンネル、バンされっぞ!


 といった大量の視聴者コメントが、画面上をバタバタと横切った。


 ちなみに“バン”とは、動画サイトの運営者によりログイン・アカウントを抹消され、動画チャンネルが無くなることである。


 我が国の憲法は言論の自由を保障するが、外国系動画サイトはそんなことお構いなしに、言論統制を行う。これに対し、我が国の政府や公的機関は全くの無策、放置状態……というのが現状である。


「……というわけでこの西条倫輔、東洋史学の博士号を取得しています。彼の事は、以後“ウドさあ”とお呼び下さい。それじゃあ早速、今回の大発見の紹介と、その調査リポートをお届けしましょう」


 ここで画面はスライド画像へと切り替わり、二人の顔だけ抜かれて画面下隅に表示される。


 金作が今回の発見を説明すると共に、画面にレジュメ形式で要点を列挙。そこに時折、倫輔の補足解説が加わる。


 続いて石蔵発見時の画像や、二〇個の縄文土器が格納されていた状況。土器を引き上げる作業の風景映像、土器の開封作業や土簡をずらりと座敷中に並べた画像が流れた。


「……そういうわけでして。石蔵の石組み、縄文土器、そしてその中から大量に出てきた土簡はにふだ。ひとところに在りながら全部、時代がちぐはぐなのです」

「じゃっとです。製造時期がそれぞれ、数千年から一万年ばかしズレちょりもす。考えらるっ理由は……」


 また、スライド画像に切り替わる。


 ――1,全部、縄文時代に作られた。

 ――2,石室は古墳時代後期以降に作られ、土器と土簡を保存し直した。


「こン、いずれかじゃろと推測したとです」

「なるほど。まあ、素直に考えるとそうですよね」


 だがしかしっ!、と金作は口調に力を込める。


 間髪入れず、どどんっ、という和太鼓効果音。


 後者だとすれば、不自然だ。石蔵を準備した人々は何故、もっとまともな容器に移し替えないまま再保存を試みたのか。


 何故、立派な石蔵をわざわざ築造してまで、再保存を試みたのか。中身の重要性をちゃんと理解出来たのか。……


 倫輔が自らの見解を説明する。


「まあ、そげな具合に色々と不自然でもあり不可解でもあっとです。オイやったら、縄文土器よりもしっかりした容器を作っせ、中身を移し替えて保管する」


 うんうん、と横で金作が頷く。


「じゃっどん、前者なら前者で、歴史がガラっと変わってしまうしもとです」


 スライドが切り替わる。


 ――文字が、縄文時代から存在した。

 ――土簡も、縄文時代から存在した。

 ――土器の蓋を見るに、縄文時代に高度な木材加工技術が存在した。

 ――縄文時代に高度な石材加工技術、石組み技術が存在した。


どれどイこれこイも、現在の縄文歴史観に合わんとです」

「なるほど、そうですね。……というわけで、我々は早速、四つの調査を行いました」


 スライド画面が切り替わる。


 ――蓋の皮、板の年代測定。

 ――石蔵の年代測定。

 ――石蔵の石組みの調査。

 ――土簡に書かれた内容の解析。


「皮と板切れは、こんな感じです。どちらもかなり劣化していて、開封時にボロボロになりました。それらの破片断片を専門の調査機関に送り、放射性炭素年代測定を依頼しました」


 画面には、開封作業の様子が映し出される。倫輔の作業の傍らで、金作が撮影したものである。


「それから石蔵の年代測定は……」


 今度は石蔵の岩を、小型クレーンで吊り上げる作業風景が映し出された。


「こうやって岩を幾つかどかしまして、あいだに挟まっていた植物……草の切れ端や葉っぱ等を慎重に採取したのです。そしてそれも、専門機関に送って年代測定をして貰いました。その結果……」


 どどんッ、と効果音。


 画面中段に一行、


 ――いずれもBNC七五〇〇±一〇〇年


「という測定結果が返ってきました!」


 ――え~~~~~っ!?


 という効果音が、彰善のPC操作によりボリューム最大で挿入された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る