1-5、

「よし。Getting startっ!!」


 彰善は本場仕込みの流暢な英語を発しつつ、ウィンドウ下部の“Start”ボタンをクリックすると、たちまちウィンドウの進捗プログレスバーが伸び始めた。


「なんじゃこりゃ?」

「ふふふふ。このフォルダーを開くじゃん……」


 デスクトップ上に突如現れた“Docs”フォルダーを開くと、幾つかのテキストファイルがあった。ファイルはなおも、一秒に一個ペースで増え続けている。


 ファイル名は、土簡に貼ったタグと同名である。


「つまり、さっきのスキャン画像を一枚ずつ、このツールで読み取って画像補正しつつ、一文字ずつ自動でバラす。ほいだもんで、豊国文字を五十音に自動変換した後、一連の文章としてテキストファイルに保存しとるんだわ。土簡四〇〇枚分、一気に全部」

「スゲえ! スゲえよ。そんなそねーな便利なツールがあるんか」

だからほいだで、オレがさっき組んだんだよだんね。フリーのツールを四つばかし、ネットで拾ってきて、ちょちょっと組み合わせて……」

「いや、それもスゲえよ。さすがガトリングじゃのお」


 倫輔も金作も、感嘆の声を漏らす。


「全部の文字を、ひとつひとつ豊国文字と照合しっせ、そイで一枚一秒ペースか。早え……」


「ああ。それも、一文字あたり三回照合して精度を上げとる。ほいだでさっき、豊国文字のテーブル画像を三つ、選ばせたんだ」

「なるほど」

「照合出来んかった文字も、ちゃんとログに吐いて情報が残るようにしてある。どの土簡の、何行目の何文字目が解析不能とひと目で分かるし、実画像ともリンクしとるで」

「至れり尽くせりじゃな。まこち驚くわひったまがっど。こン作業だけで、フツーの学者共なら数十年分の作業量じゃっどー」


 ITスペシャリストたる彰善の力を借りても、なお一年やそこらはかかるだろう……と腹積もりしていた倫輔としては、ただただ驚くしかない。


 彰善はファイル一覧より、“doc01-01.txt”というファイルをダブルクリックすると、テキストエディターが開き、その内容が表示された。


「うん。正常に動いとるで。上手いこと変換されとるな」

「おおっ。ちゃんと文章になっちょるわ。スゲえ」

「スゲえな。いわゆる“古文”よりもふりぃ文体じゃ。しかしじゃっどん、確かに日本語じゃなあ。ちゃんと意味が取れそうじゃ」


 三人はモニターを覗き込み、テキストエディターに表示されたひらがなオンリーの文章を読み始め……そして次第に顔色が変わった。


「はあ!?」

「なんじゃこりゃ!!」

「おいおいおい。これが縄文時代の文書かよ!? いや、縄文時代じゃなくて、古墳時代や飛鳥時代の文書じゃったとしても、おかしいぞ!!」




「お~い、タマキ~ンっ! 居るぅ?」


 突如、玄関の方から女の声がした。


 金作の傍らに丸まって寝ていたまんぷく丸が、すぐに首をもたげ、わんっ、と鳴いた。まんぷく丸にとっても馴染みの声である。


「……」


 三人は思わず、互いに互いの顔を見合わせ、固まった。


 すぐにズカズカと足音が響き、と同時に、


「えっ、何コレ~っ!?」


 という声。


「げげっ。ヤバい!」

「おいおい。玄関、鍵かけちょらんかったんか?」

「そりゃまあ、まんぷく丸が自由に出られるように……なあ」

「あちゃあ……」


 程なく、座敷のふすまがバタンと開け放たれた。


 顔を出したのは、見慣れた八頭身ボンキュッボン美女。数十年前にヒットしたコメディ洋画の、主演女優によく似ている。


 確認するまでもなく、幼馴染の笙歌しょうかである。


 笙歌は三人に目を遣り、


「廊下のアレ、何? あれって多分、神代文字でしょ?」


 と声を上げつつ、その瞬間座敷の傍らに雑然と並ぶ、縄文土器に目を向けた。


「ほほう」

「「「……」」」

「何か面白そうなこと、やってんじゃないの。……また私を除け者にしてさあ」

「い、いえいえ。滅相もございません」


 笙歌はニヤリと笑みを浮かべた。


「よし。じゃあ、私も混ぜなさい」

「「「げげげっ!」」」

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