1-3、
一概に縄文時代というが、物凄く長い期間を指す。その始期は、今から一万七千年前頃とされ、終期は概ね三千年前である。
一方の古墳時代後期といえば、五世紀末から七世紀半ばを指す。
つまり縄文土器と石槨は、製造された時期がそれぞれ全く異なるのである。その差は数千年……いや、ことによると一万年以上かもしれない。
「
「わからん」
倫輔は興奮気味に、そう薩摩弁丸出しでまくしたてると、ハシゴハシゴと騒いだ。
金作は倉庫から脚立を持ち出すとまっすぐ伸ばし、石槨内部へと下ろした。早速まんぷく丸が、尻尾をバタバタとさせつつ中へと潜ろうとするが、辛うじて倫輔が、おいおいダメじゃとその腰を掴んで引き戻す。
わんわんっ、と抗議の声を上げる、まんぷく丸。……
「わいどんは入っちゃいかん。……おい、キンの字。まんぷく丸はどっかに繋いじょれ。中を荒らされちゃいかん」
そう言いつつ、倫輔は脚立を伝って中へ潜……ろうとするが、すぐに腹が突っかえてしまった。
「いかん。
「わははは。
倫輔は脚立を数段上り外に出ると、痛そうに腹をさすりながら周囲を見渡す。
そこらには、作業中ということで色々な資材が転がっている。
倫輔はバールに目をとめると、それを拾って石板の隙間に差し込み、ぐいと押して僅かな隙間を空けた。金作は、同じくそこらに転がっていたロープをひっつかみ、脚立を使って石槨内部に入る。
「ほれ、ロープじゃ。掴めるか」
「OK。掴んだ」
倫輔が拡げた石板の隙間に、下から金作がロープの先端を差し込む。ロープ先端には結束金具が付いていて、倫輔はそれを上から掴み、ロープを引っ張り上げた。
上から下から、二人がかりで石板にロープを巻きつける。
「よし」
脚立を伝って地上に這い出てきた金作は、傍らのクレーンを操作して石板を吊り上げた。オーライオーライ、と倫輔が声をかけつつ、ロープを引っ張って位置をずらし、
「
大騒ぎしつつも無事に石板を移動させることに成功した。まんぷく丸がくうくうと鳴きながら、倫輔の周囲をパタパタと駆け回る。
「おっしゃ。まずは土器を一個だけ、引き上
倫輔はドタドタと開口部に駆け寄り、脚立をギシギシいわせながら内部へと潜る。そしてパシャパシャと写真を撮りまくった後、一番手前の土器に手をかけ、抱え上げようとした。
が、それはびくともしない。
「ダメじゃ。重てえ。オイの馬鹿力でン、持ち上がらん」
荒い息を吐きつつ、立ち上がって腰を擦る。
「台車じゃ台車。台車持っちょらんか? バールを梃子代わりにしっせ、ちょろっと浮かせば台車に乗せられる。そイでそこまでずらせば、あとはクレーンで引き上げらるっじゃろ」
「はあ。台車は、前の住人が放ったらかしていったポンコツがあるっちゃ。だけど結構デカいから、中に入らんぞ」
「そうか……。じゃったら買いに行くか」
「もうそろそろ日が暮れるっちゃ。明日にせんか?」
「いや、今日中に一個だけ引き上げっせ、中身を確認すっど。そイ次第で、ガトリングにも声をかけて作戦会議じゃ」
倫輔は脚立を伝って上に上がると、服に付いた土埃を払う。
それから二人、連れ立って倫輔の車でホームセンターに向かい、台車その他諸々の品々を買い込むと、急いで金作宅に戻った。
二人して石槨内に潜ると、再び土器の引き上げ作業を続行。うんうん唸りながら、どうにか地上に引っ張り出すことに成功した。
「
「そうじゃのぉ」
入念に土器表面の汚れを雑巾で落とし、前の住人が放置していったという古い台車に乗せると、母屋の玄関土間まで運び込んだ。
「よし、慎重に
土器の開封である。
「何が入っちょるんじゃろうか?」
「わからん。ガキの骨かンしれんど」
「うげ~っ。そりゃカンベンして欲しい」
土器は、上部が皮のようなもので覆われ、細引で縛られていた。
倫輔はホームセンターで購入した手袋をはめ、慎重に細引を解こうとしたところ……長い年月を経て劣化した細引はグズグズに崩れ落ちた。
「ダメじゃ……。やっぱ、
仕方なく、グズグズ崩れる細引きを全て取り除く。
次に、慎重に皮を剥がしにかかるが……長い年月を経て劣化した皮はベロベロに破れた。
「こイもダメじゃ。
皮は、幾重にも重ねて封をなしていた。倫輔はどうにかキレイに剥がそうと奮闘するが、貼り付いたそれをわずかに剥がそうとしただけでビリビリに破れる。五分程格闘した挙げ句、諦めて全てを一気に剥いだ。
倫輔の傍らにいたまんぷく丸は、それをクンクン匂った後、ペロリとひと舐めしてから首を傾げる。
土器上部の皮を全て剥いだその次に現れたのが、木の板を数枚張り合わせたような蓋である。
「キンの字、喜べ。こン中身は、ガキの骨じゃねえ」
「ん? 何で分かるんじゃ?」
「縄文時代、甕棺っちゅうて、こげな大きめの土器に入れっせ埋葬しよったんじゃ。……まあ、もうちょいデカいが」
「おお甕棺墓か。そう
「じゃっどん、こイは随分、甕棺と形が
「そうじゃのう。なんか、重要な物を長年大事に保管しようとした、っちゅう感じっちゃ」
「じゃろじゃろ!? 遺骨やったら、こげな封はせん」
金作という男は、あたかも悪ガキがそのまま大人になったような感じだが、
(決してバカではない)
と倫輔は常々思うのである。きちんと気付くべきところには気付いている。
「じゃあ、大判小判がザックザクちパターンか」
「バカ。縄文土器に大判小判が入っちょるわけなか!」
前言撤回。……
(やっぱこいつはバカじゃっごたる)
倫輔は大いに脱力した。
(いや、まあ多分、ちょろっとボケてみただけじゃろけど)
倫輔は気を取り直すと、これまた先程ホームセンターにて調達したヘラを使い、板の蓋を慎重に開け始めた……が、またもやボロボロに砕けた。
ふと気付き、皮と木片をビニール袋に入れて封をする。
それら板の破片を慎重に取り除き、そして中から出てきた物は。……
「なんじゃこれ!? 粘土板か? いや、瓦?」
倫輔はその一枚を慎重に慎重に取り出し、その表面をひと目見るなり叫んだ。
「おわ~っ。こイは大発見じゃっど!! やっぱガトリングに電話せえ! 明日の朝イチで作戦会議じゃ」
かくして彼らの“戦い”が幕を明けた。
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