第3話 ふたくち女

 僕は喫茶店を飛び出した。向かいのパスタ屋さんに走って・・・お店の中に飛び込んだ。床の髪の毛を目で追うと・・・奥の席で、こちらに背中を見せて、パスタを食べている女性の頭に続いていた。


 僕はその女性に背中に手を置いた。背中越しに、女性に声を掛けた。


 「ちょっと」


 女性の


 その口から声がした。


 「なんか用?」


 僕はその場に立ちすくんでしまった。だって、その女性は本来の口でパスタを食べていて・・・その後ろの後頭部にも口があったのだ。


 すると、女性の髪の毛が動いた。蛇のように空中でうねると・・・僕の身体に巻きついてきた。


 「うわあああああ」


 僕は悲鳴を上げた。そのとき、バランスを崩して、僕は床にひっくり返ってしまった。ひっくり返った僕の足が、女性の後頭部の口を直撃した。


 女性の後頭部の口から、絞り出すような声が出た。


 「ぎゃび~ん!」


 すると、女性の姿が薄くなった。再び、女性の後頭部から声がした。


 「お、おのれ・・・覚えておれ!」


 そして・・・女性は消えてしまった。


 僕は呆然とその場に立ちすくんでいた。


 何が起こったんだろう?・・・


 すると、優那とあの雪女のお姉さんが、パスタ屋さんに入ってきた。


 優那が眼を見張った。


 「健斗。すごいじゃない・・・ふたくち女をやっつけたよ」


 「ふたくち女?」


 「ええ、ふたくち女にはね、本来の口の他に、後頭部にも、もう一つの口があるのよ。その口は武器でもあるんだけど、弱点でもあるの。健斗が足で後頭部の口を蹴ったので、ふたくち女が退散したのよ」


 「で、でも、どうして、ふたくち女は、髪の毛で僕たちを攻撃してきたの?」


 すると、雪女のお姉さんが僕たちに言った。


 「私を狙ってやってきたんです」


 僕はお姉さんを見た。


 「???」


 お姉さんが続けた。


 「私は雪女で、妖怪の国の姫なんです。で、妖怪の国はいくつかあって、別の妖怪の国が私の国を侵略してきたんです。それで、私は、こうして人間の世界に身を隠していたんですが・・・別の妖怪の国が私を殺そうとして、ふたくち女を寄こしたんです」


 そして、雪女のお姉さんは優那に言った。


 「お願いです。私を守ってください」


 優那が言った。


 「もちろんです」


 僕はうなずいた。


 うん、うん・・・人助け、いや、妖怪助けは優那の仕事だもんな・・・


 優那がさらに言った。


 「が雪女さんを妖怪から守ってあげますよ」


 えっ、・・・


 僕はあわてて優那に言った。


 「が妖怪から守るだなんて・・・優那。僕は何にもできないよぉ~」


 優那が僕を見た。


 「仕方ないでしょ、健斗はうちの跡継ぎなんだから・・・」


 えっ、勝手に決めないで・・・


 すると、雪女のお姉さんが優那の手を取った。


 「ありがとうございます」


 優那が同じことを言った。


 「安心してください。が雪女さんを必ずお守りしますわ」


 「だぁから~、どうしてなんだよぉ~・・・」


 僕の声は無視されて・・・優那と雪女のお姉さんは手を取り合った。。。


 というわけで、こうして、僕は優那と一緒に雪女のお姉さんのボディガードをすることになってしまったのだ。


 でも、大・大・大好きな優那とずっと一緒にいられるので・・・まあ、いいか!


           終わり

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妖怪めがね 永嶋良一 @azuki-takuan

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