第2話 髪の毛

 家を継いでくれる人に、あらかじめ、『妖怪めがね』を渡しておきたいだって・・・


 と、と、いうことは・・・


 えええ・・・それって、プロポーズなの?


 そのときだ。


 喫茶店の入り口で、さっきのウエイトレスのお姉さん、つまり、雪女のお姉さんが悲鳴を上げた。

 

 「きゃぁぁぁぁぁ」


 僕と優那が声のした方を見ると・・・何か黒いものが、お姉さんの身体に巻きついていた。僕は『妖怪めがね』を掛けているので、お姉さんは白い着物姿になっている。


 優那が立ち上がった。


 「健斗。来て」


 そう言うと、優那は『妖怪めがね』を掛けたまま、ウエイトレスのお姉さんを目がけて駆けだした。


 僕も『妖怪めがね』を掛けたまま、あわてて優那の後を追った。


 といっても、喫茶店の中だ。五歩も行くと、僕たちはお姉さんの横に立っていた。僕はお姉さんの身体に巻きついている黒いものを見た。それは、髪の毛だった・・・髪の毛がお姉さんの身体に巻きついて、身体を締め付けているのだ。髪の毛は、お姉さんの身体から床に垂れている。


 僕が『妖怪めがね』で髪の毛の先を追っていくと・・・喫茶店の向かいのパスタ屋さんの中に続いていた。すると、優那が懐から何かを取り出した。小刀だ・・・


 優那って、そんなものを持ってるの? 銃刀法違反で捕まっちゃうよ・・・


 僕がそんなことを思っていると・・・優那が、お姉さんに巻きついている髪の毛を切り裂いた。お姉さんの身体が床に倒れた。お姉さんは床に四つん這いになった状態で、「ハアハアハア」と荒い息を吐いている。


 すると、優那に切られて床に落ちた髪の毛が持ち上がった。蛇が鎌首をもたげるように、床から立ち上がると・・・優那の小刀に巻きついた。優那の小刀は、たちまち髪の毛にからめ取られてしまった。すると、今度はその髪の毛が優那の身体に巻きついたのだ。そのまま、優那の身体を締め上げる。


 優那が苦しそうな声を上げた。


 「くくくくく・・・」


 優那の顔がみるみる真っ赤になった。僕はあわてて、髪の毛を外そうとしたが、固くて外れない。


 大変だ。優那の危機だ。で、でも、ど、どうしたらいいんだ・・・


 僕の頭がパニックになった。


 すると、雪女のお姉さんが僕に言った。


 「向こうのパスタ屋さんに急いで・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る