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「……思ったより速いな……」


 全スクリーンが黒く塗り潰され、各種センサー系が沈黙している中、人工衛星から送られてくる映像を見ていたネアトが呟いた。


 最強のステルスモードたるシルバーミストだが、自分の位置を知ることもできなければ通信もできなくなるという欠点──いや、欠陥品であった。


 見つけたジェリートも役立たずと放置していたが、ネアトの悪戯っこ魂は、そんな美味しいネタを捨てるなんてできなかった。


 なにも見えなければ窓をつければ良い。聞こえないのなら通常の通信機を積めば良い。自分の位置がわからないのなら航法衛星を頼れば良い。それで最強の剣になり盾になるではないか。


 ……まあ、人類領域内ではだけどね……。


「なにがですの?」


 通常通信機から流れてきたネアトの呟きにシャルロが反応した。


「ニドリード要塞に現れた《ドラゴン・アーマー》が他のところに現れたものより4割程速いんだ。しかも、光炉弾の攻撃にも速度が殺されなかった」


 その言葉にシャルロは眉を寄せた。


 各種センサー系が沈黙し、通信機は衛星からの映像のみ。たが、どの映像にも《ドラゴン・アーマー》は映ってはいないのに、なぜわかるのか理解できなかった。


「……なぜ、そういい切れるですの?」


「これまで接触したスカブ・シードの情報が全ておれのトリニカル・スーツ──『思考結晶石』に集められ、より危険度が高い情報を脳に流すんだよ」


 シャルロは言葉を失った。黙って聞いていた三人も同様だ。


 今、ネアトがいったことが仮にできたとして、その情報量は決して少なくはない。いや、これまで接触したというからには凄まじいまでの情報量である。そんな量の情報を集め、処理し、それを脳に流すなど、人の身では自殺としかいいようがない行為である。


「──ってことしたらお前らの想像通りになる」


 青筋を立てるシャルロ。顔をしかめるララン。呆れるロロ。異世界を見詰めるポロン。そんな四人の顔を見て、ネアトは嬉しそうに笑った。


「ほんと、お前らは可愛いな」


 いつもならシャルロが爆発しているところだが、ネアトの雰囲気がいつもと違うことに気がつき、なにもいわず見詰めていた。


 しばし沈黙が流れる。


 そのまま沈黙に埋もれてしまいたかったが、この戦いは自分の私憤。自分が望んだ戦いである。そんなことに付き合わせ、あの約束を破ってしまうでは無責任にも程がある。なによりジェリートに顔向けできなかった。


 意を決したネアトは、心の底から溢れてくる感情を必死に堪えて真面目な顔を維持した。


「お前たちは天才だ。驕ることもなければ現状にも甘えない。常に努力し、自分を鍛えている。意志がある。だから死ぬな。なにがあっても生き抜け。そして恋をしろ。人生を楽しめ。生きる意味など死ぬ間際に考えろ。そんな下らないことに時間を費やすくらいなら昼寝でもしていろ。生きて生きて生き抜いてから死ぬんだ!」


 いってて恥ずかしいと、項垂れてしまうネアト。


「──なぁ~~って言葉がお前らに届いたら気持ち悪いか」


 それまでのシリアスがウソのように顔を上げ、いつもの悪戯っこスマイルを輝かせると、まずシャルロを見た。


「お前の翼で《ドラゴン・ライダー》の気を引け」


 どうやってとはいわなかった。お前ならできるともいわない。ただ、命令しただけであった。


 シャルロもどうやってとは聞かなかった。動揺も見せなかった。


「天空の淑女の名に懸けて」


 シャルロを映す画面が消え、シルバーミストから離脱した。


 続いてポロンを見る。


「その光力銃でドラゴン・フィールドを撃ち抜け」


 シャルロと同じくどうやってとはいわなかった。必ずともいわなかった。


「わたしはなに?」


 ポロンの質問を正確に理解したネアトは考え込んだ。


「……ありきたりではあるが、"星の守護者"、ではどうだ?」


 いつも異世界を見詰めていた目が細くなり、とっても嬉しそうに微笑んだ。


「星あなたの守護者の名に懸けて、星あなたの敵を撃ち抜きます」


 画面が消え、ポロンもシルバーミストから離脱した。


 優しい笑みで見送り、厳しい表情になってロロを見た。


「お前は必ず《ドラゴン・ライダー》を倒せ。絶対にだ」


 打て変わってロロには厳しい口調で命令した。


「あいよ」


 その命令に対してロロはあっさりと承諾してシルバーミストから離脱した。


 口許を緩め、ラランを見た。


「お前は好きなように動け」


 それだけだった。


「……好きに、ですか?」


「ああ。好きに動け。お前が望むままにな」


 穏やかな口調の中に思わせ振りな言葉を吐いた。


「……なんかあたし、とっても損な性格しているような気がしてきた……」


「ああ。それはもう悲しくなるくらい損の性格だな」


 まるで自分にいっているような口調だった。


「……あたしにも洒落たあだ名をください」


「"黒魔女"」


 そんな速答に斜め上を見たラランは、ニヤっと笑った。


「良いですね、それ。あたしの色は黒。機体も黒。スーツも黒。なかなか洒落てて良いわ。うん。腹黒いあたしにピッタリだ!」


 その素直な喜びが懐かしかった。


 ……まったく、こういうタイプってたまに可愛い笑顔を見せるから反則だよな……。


「では、黒魔女の名に懸けて、好きなように動きます」


 ラランが映る画面が消え、シルバーミストから離脱した。


「……まあ、最後に良い出会いをさせてくれたことに感謝だな……」

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