30
格納庫から出ると、少女たちがポッドへと消えて行くところだった。
そのまま飛び立とうとしたが、ふっと思い直し、レナを呼び出した。
「で、大きくて変なのって?」
ため息のあと、これですと大きくて変なのを映し出した。
ドラゴン・アーマーの"上半身"からして、その全長は二百メートル強。幅は百八十弱。小型セーサランなら三百匹は収容できそうな
「……ったく、隠しネタが多すぎだ……」
がっくりと肩を落としたかったが、落としたら立ち直れそうにないので根性で堪えた。
「で、この《ドラゴン・ライダー》は、どこに出現した
勝手に命名するのはいつものこと。どうせ見た目で決めているのだから突っ込むのもバカである。
「一匹はオーベスト要塞とオルビタル要塞の間に。もう1匹はニニス方面です」
「クソ! "三匹"もいるのかよっ!」
その言葉に珍しく悪態をつくネアトだった。
《ドラゴン・アーマー》だけでも攻撃大隊にも匹敵するのに、どこからどう見ても驚異でしかないものが三匹。もう人類に希望を持つなといっているようなものである。
「確かに、こんなものを隠し持っていたのは驚きです。ですが、本当に3匹もいるんでしょうか? しかもまだ現れぬ1匹がオバド基地を襲うなど……」
「勘だけど、来る」
その言葉が出れば充分である。その言葉があったからこそ自分たちはこうしてここにいられるのだから。
納得したレナは、次の疑問を口にした。
「そこを狙う理由はなんです? 確かに千ものスカブ・シードを失うのは痛いですが、『工房』より先というのは不可解です」
二ヵ所が狙われるのは理解できる。
軌道エレベーターは補給の要だし、大気圏内型の《セーサラン》にしたらエルトアラ大森林は繁殖地に持ってこいの環境である。どちらを失っても人類に未来はない。だが、オバドを襲ったところで『工房』は無傷。また生み出せば良いだけのことだ。
「マナ酔いだな」
「はい?」
ネアトの突発には慣れたと思ったが、そのセリフがどう繋がるかまったくわからなかった。
「これも勘だけど、最初、シルバーズの目的は『工房』襲撃だったと思う。けど、偵察隊を捕まえ、『工房』の場所を聞き出そうとしたが、なぜか死んでしまう。最初は連れてきたことによるショック死かと考えまた捕まえるが、やはり死んでしまう。なにもしていないのにどうして死ぬんだ?」
その言葉が一年前の出来事を思い出させた。
「──高密度のマナが原因っ!」
ネアトは正解とばかりに頷いた。
オトラリアに強行侵入し、その外気に触れたとたん、ネアト以外の者たちが倒れてしまい、あわや全滅という場面があった。
これはマナを持つ者だけに起こる現象で、容量以上のマナが体に入ると、マナ脈が圧迫され、流れを詰まらせるのだ。
マナをコントロールをマスターしていたネアトにより一命をとりとめたものの体を慣らすのに四日も費やしてしまった。
「おれでさえあのマナの濃さにはクラっときましたからね。マナのコントロールを知らない者が千機以上もの"分解"には耐えられないでしょうよ」
一機で一都市を賄える程のエネルギーを秘めるものが千以上も分解されたら。まず間違いなくマナを持つ者は死ぬ。次の戦力が途切れる。そう考えるだけで胃が痛くてなってきた。
「……で、ですが、オバド基地へ行くにはニドリード要塞の領域を通らないとなりません」
知将として名高いレゼリア中将が指揮し、そこを守る艦隊は精鋭揃い。しかもそこに所属する第198攻撃隊と第209攻撃隊には訓練所時代、一緒に幻惑の黒猫に鍛えられた双子のスーパーエースもいれば、第134攻撃隊の斬り込み隊長たるリックがいる。この三人なら例え《ドラゴン・ライダー》だろうと突発するのは容易ではないはずだ。
「ほんと、相手にやられると厄介だよね、"ビックバーン"ってさ」
目を見開くレナ。
それはネアトの得意とする戦法で、スカブ・シードの強制分解攻撃であった。
スカブ・シードや《セーサラン》のようなマナを見て感じることができるものには、その分解は光の嵐。目が眩み、感覚は狂い、行動を奪われる。使い方を間違えればこちらまで被害を被うという、自爆行為に等しい戦法である。
ネアトの言葉通り、ニドリード要塞のレーダーに二十機以上もの行方不明のスカブ・シードが現れ、一斉に分解された。
「リックには無理するなと伝えて。あとよろしく──」
通信を強制的に切り、ポッドから出てきた少女たちに繋いだ。
光力銃を持つ『ソジュア工房』製リグ・シードにはポロン。
光力剣を持つ『シャラズ工房』製リグ・シードにはロロ。
速さを求めて変革した『ニノトリア工房』製スカブ・シードにはシャルロ。
幻惑の黒猫が究極までに変革した『レジロア工房』製スカブ・シードにはララン。
……まるでこいつらのために用意したかのような機体だな……。
いや、選別したのだろう。覗き魔が。ジェリートも多くのスカブ・シードを自爆させ、多くのスカブ・シードを拾得していたから。
「普通ならここでなにかいうところだが、生憎、お前らのようなひねくれ者に伝わる言葉は持っていない。だからなにもいわない。遅れるなよっ!」
ネアトの機体から銀色の風が吹き、辺りを銀色に染め上げた。
やがて銀世界が晴れると、そこに五機の姿はなかった。
それは、幻惑の黒猫が遠い過去から見つけた"シルバーミスト"と呼ばれるステルスモードであった。
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