第6章 輝く理由

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 格納庫まで一気に駆け抜けたネアトは、主要シャッターの前で立ちはだかる少女たちに気がつき慌ててブレーキを掛けた。


「なにしてる、お前たち!?」


「見てわかりませんの?」


 パイロットスーツを纏ったシャルロが小馬鹿にした口調でいった。


「ゴアドのおっさんに断られたから次を待ってただけじゃん」


 限りなく真実なことをしゃべってしまったロロへと振り向き、必殺のシャルロビームを食らわして黙らせた。


「自分の言葉には責任を持って」


 一人、ヘルメットをかぶったポロンがネアトの腕をつかんだ。


 反射的にラランを見ると、なにをいっても無駄ですよと、肩を竦めて見せた。


「……相手はシルバーズ。その中でも最悪の敵なんだぞ……」


 いくら才能があろうと、まだこの四人では太刀打ちできる相手ではないのだ。


「フン! わたくしの華々しいデビューにはもってこいの敵ですわ!」


「そうそう。これまでの成果を試すにはもってこいの敵だしな、逃すバカはいないぜ」


 ゴアドとの訓練以降、四人は狂ったように訓練にのめり込んだ。


 シャルロとロロは、毎日スカブ・シードに乗り込み、十時間以上は同調率をたかめることに集中し、ラランとポロンはシミュレーターに熱中し、中級型タイプ二十匹相手でも勝てるようになった。


 驚異的な才能だし、遠くない未来、スペシャルエースに辿り着くだろう。それでも今はまだエース級に入ったか入らないかの域どしかないのだ。


「……ほんと、もっと真面目に生きてくるんだったよ……」


 自分の人生、無理無謀の繰り返し。シルバーズを相手したのも4人と同じ歳だった。そんな自分にダメだとはいえないし、いう資格もない。なにより、この4人が聞く訳もなかった。


「良いんだな?」


 四人が力強く頷くと、空から凄まじい爆音が轟いた。


 五人が一斉に見上げると、大型の降下ポッドが真っ赤な炎を噴き出し、今まさに着地しようとしていた。


「──"ジェリー・キャット"だとっ!?」


 そのポッドに描かれたウインクした猫耳の女性に、ネアトは我が目を疑った。


 それは、ジェリートが子供の頃好きだったアニメのキャラクターで、野良猫遊撃隊のマークでもあったもの。そして、そのポッドは、鍵石かぎいしに受け継がれてきたスカブ・シードを収納しておく機動型異空間庫──『コン・リート』であった。


 ……そ、そんな、あれを召喚できるのは異空間に締まったあの人だけのはずだ……!?


 事態を飲み込めないまま見詰めていると、強制通信が入り、ネアトの目の前に領域画面が開かれた。


「キャットが君に遺したものよ」


 優雅に現れたシジーが前置きなしに切り出した。


 ポッドが開き、特殊戦用に変革された二機のリグ・シードとその武器たるジン・ハート搭載の剣と銃。そして、幻惑の黒猫が究極まで変革した『レジロア工房』製と『ニノトリア工房』製のスカブ・シードが収められていた。


「君には不要でしょうけど、いずれわたしの可愛い天女たちにもしものことがあったら困るからね」


 ネアトの教官ぷっりを最初から見ていた覗き魔にネアトは苦笑した。


「ヤレヤレ。あなたには敵いませんね」


 そう軽口をいうネアトだったが、その表情は今にも泣きそうだった。


 ……キャットの気持ちがわかるならバカしないの……!


 そう叫びたかったが、シジーにもそれをいう資格はなかった。


「輝く星よ。希望の星よ。あなたの未来に幸運がありますように」


 それは幸運の呪文。ジェリートがネアトに贈った最後の言葉であった。


 心の奥底から出てくるなにかを抑えつけるように体を折るネアトに、少女たちはなにもいえず、ただ、その姿を見詰めていた。


「……行け」


 少女たちにそういい、ネアトは格納庫に消えて行った。


 残された少女たちは、咄嗟に動けなかったが、飲み込まれないように踏ん張っていたラランがなんとか動き出すと、残りの三人も呪縛から解き放たれ、コン・リートへと駆け出した。


 ネアトがオジルのリグ・シードの前までくると、トリニカル・スーツの胸についた鍵石を取り外し、空中に五角の星を描いた。


「オブラジェル・アード・リグ・ジェムド」


 それは、伝説の時代に用いられた『星の言語』であり、『レコプス工房』製のものを搭乗員を初期化できるシークレットコードであった。


 開かれた胸部ハッチに飛び込み、座席に身を沈める。


 1呼吸してから鍵石を操縦晶へと押し突けたその瞬間、紺色だった操縦晶が銀色に輝き、コクピット内を輝き照らした。


 時間にして六秒。輝きが消えると、そこは最適化された自分のコクピットに変革していた。


「……さすが、野良猫遊撃隊の機体だ……」


 変革の速さ。それは経験値の高さであり、野良猫遊撃隊が無敵攻撃隊と呼ばれた由縁であった。

「まったく、ここまでくると呪いだよ」


 何度となく機体を乗り換え、変革してきたにも関わらず、左側のサブスクリーンの待機画面に描かれた猫耳の女性だけはどうしても消せなかった。

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