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「……さて。そろそろかな?」


 消えた領域画面を長いこと見詰めていたネアトがゴアドへと振り向いた。


「……な、なにがです?」


 重い沈黙に圧されて直ぐに反応することはできなかったが、表情は崩さず真っ直ぐネアトを見返した。


「なにがって、ウリューサム要塞への攻撃ですよ」


 そういわれてもゴアドにはわからない。


 幾度となく死線を潜り抜け、どんな状況にも冷静でいられるように訓練を積んできたが、幸運の星が繰り出してくる内容に意地も虚勢も出てきてくれなかった。


「──おっと。いってる側からきちゃいましたね、シルバーズの"本隊"が」


 三次元スクリーンを操作してウリューサム要塞から見た状況を映し出した。


 その数五千七百匹。その中には完全武装の《ドラゴン・アーマー》が2体。そして、《ドラゴン・ソルジャー》が六体混ざっていた。


「まったく、努力したのはあなたの方でしょうが」


 シルバーズの中でもバランスの取れた六、七、八番隊を持ち出し、遠距離砲撃獣の《051》を二千。特攻自爆型の中でもっとも希少で戦略級の威力を秘める《055》を三十匹も連れてきた。


 それだけでシジーを強敵と見定めているし、機動性と物理攻撃が可能な《040》を連れてくるなどシジーを意識しているといっているようなものだ。


「だが、星の天女は、そんなことでは落とせないぞ。なんたって頭脳戦にかけては人類最強の初代スペシャルエース。見た目は麗しいが中身は……もっと麗しいです。ほんとだよ」


 なぜか後ろを振り返り、情けなく笑った。


 再び視線を戻すと、要塞前で布陣していた十六の攻撃隊から二、三機が抜け、五機一隊の砲撃陣を八個作り出した。


 攻撃隊の後ろでは偵察隊がスカブ・ラクターとリグ・シードに解かれ、要塞を囲むように散らばった。


「第六次接触戦が終わって二ヵ月もしないでもう欠点を克服してるよ、あの天女さまときたら」


 ウリューサム要塞を縮小させ、周囲の戦闘状況を表した。


 ネアトは腕を組み、その状況を黙って眺めた。


 ゴアドもネアトにならい戦況を見て《セーサラン》の意図を探ることにした。


 敵の作戦はだいたい読める。こちらの要に楔を打ち、開いた穴から突入。本体を崩すといったものだろう。言葉にすれば簡単だが、やろうとしたら難題たらけだし、それを見抜けない二人ではないことくらい敵もわかっているはずだ。わかっていながらする理由とはいったいなにか。


 ……たんなる脅しか、それとも別の目的があるのか、自分にはまったく検討もつかんな……。


 時間にして三分ちょい。沈黙していたネアトがコズミを見た。


「偵察隊誘拐の目的は、まあ、読めます。スカブ・シードやパイロットから情報を得るためだってね。この作戦もだいたいは読める。でも、なにかが不自然なんですよね~」


 最初は勘で動く人の言葉に着いて行けなかったが、一年以上付き合っていたらなにをいいたいかわかってくるから不思議である。


「七つの『工房』、軌道エレベーター及びセントラルシティー、統一連合軍本部、オーマニア軍事宇宙港、光炉弾が保管されているザマナ基地、大穴でマグリアナ工業地帯ぐらいしか思い浮かばないですね……」


 いったら切りはないが、その中でどれか一つでも失ったら三年もしないで人類滅亡することだろう。


 コズミから視線を外して考え込み、一分ぐらいしてまたコズミを見た。


「目的が攻撃じゃなかったら? 例えばおれたちがオトラリアでやったように混乱テロ行為てか?」


 驚くより呆れる方が勝った。


 ……やはりこの人はイカれてるわ……。


「となると、だ。放つところは二つ。ゴンドアの樹海とエルトアラ大森林となる訳だが……やはり納得できないんだよな~~」


 いってゴアドを見た。


「ゴアド少尉。申し訳ありませんが、おれのスカブ・シードに乗ってエルトアラ大森林に行ってください。敵は小型セーサランをばら蒔くはずです。オトラリアのようにね。あと、訓練生の中から手頃なのを選んで曹長たちのスカブ・シードに乗っけてください。一人では探知するのは大変ですからね」


 悪戯っこスマイルに思いっきり顔をしかめて見せるゴアド。


 ヒヨッ子でもない訓練生にやらせる内容ではないし数でもなかった。


「……これまでにない破天荒な命令ですな……」


「そうですか? おれはいつものことでしたよ」


 突発命令など日常茶飯事。与えられる兵員など問題児か新兵ばかり。簡単な作戦など1つもなかった。それでも戦ってきたのは復讐の一念があったからだと、そういいたげな笑顔だった。


「……まず間違いなく一途なのはあなたの方だ……」


 ゴアドの苦笑にネアトは申し訳なさそうな笑みで応えた。


「よろしいので? 自分の愛機を持って行かれても」


「名人、機体を選ばずってね。練習機があれば充分です」


「あなたがいうと笑えないから参りますな……」


 フフと笑い、オトラリアの闘神と恐れられた頃の自分を呼び覚ました。


「では、お先に」


 英雄の敬礼に、ネアトは一礼で応えた。


 感謝と謝罪、そして、必ず帰ってくるようにと願って……。

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