第5章 希望の星たち

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 双葉月二十五日。オーベスト要塞所属の第440偵察隊が、第一次防衛線から1万キロ出たところを偵察中、行方不明になっていた第395偵察隊の信号をキャッチした。


 隊長のルド軍曹が直ぐにオーベストへと報告を飛ばし、受けた要塞司令官オーティアス中将は、第14艦隊のマポロ准将に出撃を命じた。


「……やはり、聞き入れてもらえませんでしたか……」


 四十もの戦艦が出発して行く光景を待機所で見ていた第501偵察隊副隊長セリビア伍長が、しょんぼりとした姿で帰ってきた自分たちの隊長──レネアム准尉を苦笑しながら出迎えた。


「ええ。口出しするなって怒られたわ」


「でしょうね。あの司令官、第六次接触戦では良いところがありませんでしたからね。手柄が欲しくてしょうがないんでしょうよ」


 二年近くこのオーベスト要塞にいるセリビア伍長にため息で返した。


「……ほんと、あの人が命令違反する気持ちが良くわかったわ……」


 幸運の星の下にいたときはそれ程感じなかったが、自分が一隊を任されるようになり、好き嫌いで動くバカな上官に意見具申することがこれ程大変だとは思わなかった。


 そんなバカどもに笑顔を崩さなかった幸運の星の根性がどれだけ曲がっていたのか、今やっと理解できたレネアムであった。


「やはり罠なんでしょうか?」


 レナやコズミには敵わないが、あの悪戯者の中で一年も小隊長をやってきたのだ。落とし穴の見分けくらい嫌でも身につくというものだ。


「忽然と消えた偵察隊が忽然と現れる。しかも見つけてくださいとばかりに信号まで出す始末。これが罠じゃなければとっくに人類は《セーサラン》に勝ってるわ」


 その言葉と気迫にセリビアは息を飲んだ。


 第134攻撃隊の一員が自分たちの隊長になると聞いたときは、それ程驚きはせず、まあ、幸運の星の付属だろうとしか思わなかった。


 だが、自己紹介も簡単に第501偵察隊全てのスカブ・シードを強制変革し、第134攻撃隊の全記録を入力。同調率やトリニカル・スーツ、《セーサラン》の思考や戦略を説き、全隊員の能力を飛躍的に高めるばかりか隊員の心をしっかりとつかんで見せたのだ。


 ……第134攻撃隊が無敵と呼ばれる所以は、レネアム隊長のような人を育てたからなのね……。


「それはそうと、計画はどこまで進んでる?」


「偵察隊、攻撃隊の通信設定は書き換えは終了してます。トリニカル・スーツの配布は第三、第四、第七まで完了しました。要塞への通信割り込みはまだ続行中です」


 状況は余り進んでいないようだ。


「まあ、しょうがないか。わたしたちはスカブ・シードのパイロット。工作兵じゃないしね~」


 ネアトを彷彿させるような子供っぽい口調であった。


「──トリニティー・オン」


 統一連合軍指定のパイロットスーツが一瞬にして青を主体としたトリニカル・スーツへと変化した。


 腕の通信機を操作し、要塞所属のスカブ・シードパイロットたちに強制的に通信を繋いだ。


「こちら第501偵察隊のレネアムです。各攻撃隊、各偵察隊は、いつでも発進できるように準備を進めてください。一連の出来事が《セーサラン》によるものなのは間違いありません。ですが、それがどんなものかまではわかりません。敵は、幸運の星に匹敵するくらい狡猾なんですから。でもまあ、幸運の星が最終防衛線にいるので無茶はしないでくださいね」


 通信を切り、それはそれはとっても重いため息を吐いた。


「……ううっ。もとの古巣に帰りたいよぉ……」


 星の攻撃隊随一の泣き虫がホロホロ泣いた。

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