15
「なんですの、あれはっ!?」
シャルロの怒りがついに爆発した。
「なにがさ?」
付き合いの良いロロがしょうがなく応えてやった。
「なにがじゃありませんでしょう! あの人を小馬鹿にしたような態度もそうですが、こんな破廉恥なものを着ろだなんて……屈辱ですわっ!」
まるでそれがネアトであるかのようにトランクケースに蹴りを入れた。
「そうか? オレは動きやすくて良いと思うが?」
「あたしも良いと思うけど」
ネアトにいわれた通りに服を脱ぎ出すロロとラランを鋭く睨んだ。
「あなたたちはそれで宜しいの!? あんな変態のいう通りにしてっ!」
「まあ、ある意味変態だよな」
「確かに。軍事機密級のことをペラペラしゃべるし」
「ラランは知ってたか? スカブ・シードが何人も登録できるって」
「知る訳ないでしょう。あんなこと、幸運の星以外のヤツがいったら頭の中疑われるよ」
自分そっちのけでおしゃべりする2人にシャルロの理性がぷちんとキレた。
「キッ──ッ!」
その奇声は充分すぎる程人を殺せる力があった。
まともに食らった2人は、平衡感覚を失い倒れてしまった。
後頭部を強かに打ち付け、復活するのに時間を要しながらなんとか立ち上がると、悔しくて悔しくて、どうしても悔しいらしいシャルロがまだトランクケースを足蹴りしていた。
「落ち着けよ、シャ──」
「──落ち着いていられる訳がありませんわっ!」
シャルロの怒りにあっさり駆逐されるロロ。
「……まったく、そんなんだから小馬鹿にされるのよ、あんたは……」
ロロに向けられていた怒り光線がラランに向けられた。
だが、ラランの精神構造は堅牢であり、とてもひねくれている。シャルロの直情くらいで揺れることはなかった。
ラランが鉄面皮なのはシャルロも知っている。その意志の強さも理解している。唯一、敵にしたくい女だと認めている。だが、どうしてもこの怒りが収まってくれないのだ。
ラランもシャルロの性格は熟知しているので、それ以上は斬り込んだりはせず、直ぐにシャルロから視線を外した。
「それよりロロ。あんた、シャルロになにをいってたの?」
「そーだよ。シャルロの爆発で忘れてたよ」
そっぽを向くシャルロがなにか文句をいっているが2人は無視して話を続けた。
「いやな、あのにーちゃん、ラランが座ったらコレに目を向けたんだよ」
操縦晶をコンコンと叩いた。
「どういうこと?」
「良くわからんが、オレたちに関係あることだと思う。ラランの登録が終わって晶の部分が濃い緑になったら呆れたような苦笑してたから」
「あたしたちに関係あること、ね。他はどうだったの?」
視界の隅で素っ裸になったポロンを認識しながら尋ねた。
「ポロンは青紫になって納得してたな。シャルロは少し水色の混ざった白で笑ってた。オレはなんだった?」
その問いにシャルロが怒りながら赤みを帯びた黒だと答えた。
ラランは腕を組んで考え込んだ。
「……多分、だけれど、それ、マナの色だと思う……」
「マナの色?」
ロロの問い返しにラランは頷いた。
「あたしも詳しくは知らないんだけど、昔のデータによればマナには色があるんだってさ。その色はその人の特性。まあ、性格みたいなものね。赤は情熱。黒は闘魂。白は清純。ってね。あたしは濃い緑か。なんだっけな、緑って? ん~。あのデータどこにしまったっけな~?」
「そーか。だからあのにーちゃん──」
「──お黙りっ! それ以上いったらただじゃおきませんわよっ!」
シャルロビームに沈黙するロロ。やはり一言多い娘であった。
鬼の形相をするシャルロと子犬のように脅えるロロの間を、いつの間にか着替えたポロンが通り過ぎて行った。
「…………」
「…………」
見詰め合うシャルロとロロ。話ながらも着替える手を止めなかったラランもパイロットスーツに着替え、さっさと出て行ってしまった。
そんなラランの後ろ姿を追っていたシャルロとロロはまた見詰め合い、そして放たれた。
これでは先程と同じ。今度こそいい訳できなくなる。
いそいそと服を脱ぎ捨て、パイロットスーツに着替えた。
ロロはそのまま飛び出して行ったが、シャルロはロロのようにがさつな女ではない。脱いだ服を綺麗に折り畳んでトランクケースへとしまった。ついでにロロのもしまってやり出て行こうとして止めた。床に散乱するポロンやラランの服も綺麗に折り畳んでトランクケースへとしまい、先程出したボックスへと戻した。
「まったく、だらしないんですから!」
まあ、シャルロとはそういう少女であった。
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