14
スカブ・シードの全長は、約三十六メートル。
百メートルを超すものが主流の《セーサラン》に比べると、とても小さく迫力にかけるが、その能力は
ネアトのスカブ・シードのコクピットも練習機や教官たちのとはまったく違い、なんともシンプルであった。
「……変……」
ポロンがコクピット内を見回して呟いた。
「すっきりしてるな」
「それに広いですわね」
「教官たちのコクピットからしたら趣味は良いじゃない?」
あっちこっちコクピット内を見て回る四人をネアトは黙って見ていた。
エース級のパイロットには職人気質が多い。だが、ネアトは気にしない。この機体は、代替えで用意したもので多種登録は第134攻撃隊の売りである。そんな細かいことを気にしていたら生き残れる戦いも生き残れはしない。それに、この機体を選んだ最大の理由は初心者に教えるためある。
「中佐」
操縦席に座っていたラランがハッチにゆったりもたれ掛かっていたネアトを見た。
「うん?」
「この席、中佐の体には小さくないですか?」
「ああ。くるときネレアル大尉の体に合わせて変革したからな」
その言葉にラランは首を傾げた。
「……えーと、そんなことして良いんですか? これ、中佐のでしょう?」
重力制御されてるとはいえ、操縦席とは自分の体を支えるもの。長時間、ここに座っていなければならないのだ。他人の体では疲れてしかたがないだろうに。と、いろいろ突っ込みたいところは多々あるが、まず常識的なところから聞いてみた。
「操縦晶に手を乗せて体をリラックスしてみな」
ネアトの注文に眉を歪めたが、黙ってそれに従った。
「エルディク・オン」
ネアトはもたれ掛かったまま、マナが込められた"
ジン・ハートと呼ばれる
時間にして5秒。全計器が灯り、全スクリーンが立ち上がった。
「すごっ!」
通常、スカブ・シードが立ち上がるまで十七秒掛かるといわれている。それが5秒で立ち上がるなど非常識を通り越して笑い話であった。
「ルック・オン」
「──あひっ!」
油断していたラランは、操縦晶から流れてきたくすぐったい波動に思わず可愛い悲鳴を上げた。
「そのまま手を離すんじゃないぞ」
視線をラランから操縦晶へと移動した。
その行動にロロが気がつきあとを追ったが、これといって変わったことは見て取れなかった。
この男と出会って一時間も経ってないが、意味のないことをするタイプではないと認識した。その行動になにか意味があるんだろうと見詰めていると、赤色だった操縦晶が濃い緑に変化した。
直ぐにネアトを見ると、なにやら苦笑いしていた。
「よし。マナ及び生体登録完了」
ラランの体の中を駆け巡っていた波動かわ消えると、まるで全力疾走したかのように息を切らし、大量の汗が噴き出した。
「ララン!」
「大丈夫か!?」
シャルロとロロが慌てて近寄り、ぐったりするラランを座席から下ろした。
「……だ、大丈夫。ちょっと力が抜けたたけよ……」
「──なにをなさったの!」
シャルロが鋭い目でネアトを見た。
「おれのスカブ・シードにラランのマナと生体情報、思考波を登録させたんだよ。だるいのはラランが抵抗したからだ」
「わかるように説明なさいっ!」
その手に光力銃があったら間違いなく撃っているだろう迫力であった。
「適合率。この率が高い程スカブ・シードの性能を引き出せる。それは、この兵器がマナの力で指示命令しているからだ──ってのは習ったか?」
そんな初歩中の初歩、習う前に知っていた、と叫びたいが、そんな道草をする程バカではないし気も長くない。こくりと頷いて先を促した。
「確かに適合率が高い程スカブ・シードの能力を引き出せる。だかそれは、マナだけに頼っているということだ。ご先祖さまが遺伝子を操作してマナを得たとはいえ、その量は微々たるもの。そんなおれたちがマナ専用機を使いこなせという方が悪いだろう」
その言葉の意味はわかる。だが、それとこれがどう繋がるかがわからなかった。
自分たちもスカブ・シードの知識は持っている。調べれる限り調べた。だが、ネアトが語る知識は、知っていたたちの知識とまるで違った。これではなにをいわれても首を傾げるだけである。
そんな気配を感じ取ったネアトは、どうしたものかと考えたが、上手く説明しようとしたら1週間は掛かるのでざっくばらんに説明することにした。
「とにかく、だ。おれのスカブ・シードは、人類用に変革したもの。で、それを更に変革してマナ以外でも伝達できるようにした。そんな機体でマナだけ登録してもその能力は引き出せない。ラランのマナの流れ、量、生体、思考、などなどをスカブ・シードに理解させ、それを伝達、増幅してくれるパイロットスーツを作る必要がある、という訳だ。今はそう理解しろ。スカブ・シードがお前たちの体になったとき、全ての疑問は解けるから」
「わかった」
と、ポロンが座席に座り、操縦晶に手を置いた。
「ルック・オン」
ラランのように悲鳴を上げることはなかったが、無表情が少しだけ歪んだ。
ポロンの適合率が八十七パーセントということを頭の隅で思い出しながら操縦晶──"マナカラー・メーター"を見た。
そのまんまのネーミングだが、これは個人のマナの色──特性を見るためにつけたものだった。
……ちょっと青みを帯びた紫か。冷静さと忠実さを兼ね備えた騎士の色ってところかな……。
苦笑するネアトを見たロロは、肘でシャルロを小突き、操縦晶を見ろと視線を送った。
一瞬、戸惑ったシャルロだが、ロロの真剣な顔に気持ちを切り替え、その視線の先にある操縦晶を見て、色が変わったことに気がついた。
「じゃあ、次はオレな」
震えるポロンを軽々と持ち上げ、ラランの横に置いて座席へと身を沈めた。
適合率70%のロロは、三人より性格が単純なのか、なんの疲れも見せず登録を終了させてシャルロに次を譲った。
座席に座ると登録が開始され、少し水色の混ざった白になると、ネアトは可笑しそうに頬を緩ませた。
「ご苦労さん」
ロロと同じく疲れを見せないシャルロにそういい、コクピットの後方へと移動した。
サバイバルキットや武器が収納されていそうなボックスを開けたネアトは、中から星のマークが描かれた中型のトランクケースを四つ取り出し、四人の前に置いた。
「お前たちのパイロットスーツだ、着替えろ」
訝しく思いながらもトランクケースを開くと、白いパイロットスーツが綺麗に折り畳んで入っていた。
それぞれパイロットスーツを取り出して掲げて見た。
自分たちが知るパイロットスーツとはまったく違い、なんともシンプルで体の線が出るものだった。
「……中佐の趣味ですの……?」
シャルロの軽蔑した眼差しにネアトは苦笑する。
「大尉にもいわれたが、おれの趣味ではないよ。元々女性用のパイロットスーツはそういうタイプなんだよ」
「…………」
これっぽっちも信じてもらえてない目であった。
「良いから着替えろ。あと、下着類はすべての脱ぐんだぞ。それは生命維持装置も兼ねているから異物として吸収されハイジョされるからな」
ネアトに対する軽蔑度が更に増した。
これ以上なにをいっても無駄と悟り、その軽蔑の眼差しを悲しそうに受け止めた。
「……なんとでも思ってくださいな……」
がっくりと肩を落としてコクピットから出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます